アベノミクス、第3の矢はどこに向かう?:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
安倍政権が成立して約100日。アベノミクスは、実際問題、まだ何も具体的なことはしていない。財政支出にしても、金融緩和にしても、それは実体経済を上向かせるトリガーにすぎないのだ。
2014年までは金融緩和を続けると言ってきた米FRB(連邦準備理事会)のバーナンキ議長が、どうやって「出口」に導くのか。最近は米国でそれがしきりに議論されている。もちろん当局は、今の段階で具体的に出口について触れることはしない。景気の腰を折ってしまっては何もならないからだ。
ただ米国と日本の違うところは、潜在成長力と財政赤字の大きさだと思う。とくに人口が増え続ける米国は、減り始めている日本と比べて潜在成長力で大きな差がある。米連邦政府の財政赤字も昨年末の「財政の崖」を始めとしていろいろ話題になるが、日本のほうが状況はよほど悪い。来年の消費税引き上げも「焼け石に水」程度の効果しかない。
それに米国は、製造業の「国内回帰」も一部とはいえ期待できる。何といっても、世界最大の消費大国という市場がある以上、労賃やその他のコストの兼ね合いがつけば、工場を建設するメリットがある。それに対して、日本の場合、果たして海外に出て行った工場が円安になったからといって戻ってくるだろうか。
日産のゴーン社長が「日本で最低でも年間100万台は生産する」と言う一方で、海外に出した工場を日本に戻すつもりはないと明言した。それも無理はない。自動車産業にとって日本は、誤解を恐れずに言えば「衰退市場」なのだ。2012年度は国内販売が500万台を越えたとはいえ、この程度の数字が精一杯なのだと思う。実際、2013年の販売目標はこれをはるかに下回る水準である(消費税引き上げは自動車に関しては他の減税と組み合わせるので中立要因だから、需要の前倒しはない)。
財政支出にしても、金融緩和にしても、それは実体経済を上向かせるトリガーにすぎない。ロケットを飛ばすには地球の引力圏から飛び出すのに十分な燃料がいる。現在のアベノミクスではそれが「成長戦略」ということになるが、実際のところ成長戦略によって日本経済が押し上げられるには時間がかかる。規制緩和にしてもそれが効果をもたらすには「期待」だけでは足りまい。
トリガーが引かれ、成長戦略がやがて果実をもたらすまで、どこが引っ張っていくのか。賃上げを頼むだけで、そこを補えるのか。参院選の7月までガス欠にならないのか。それはまだ分からない。
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