研修後のアンケートを鵜呑みにしてはいけない
アンケートは質問に対して本人なりの解釈で書いていることから、受け止め方が難しい。アンケートの評価が研修プログラムの評価ととらえるには注意が必要だ。
今野誠一(いまの・せいいち)
マングローブ社長。設立以来15年、企業経営にあたりつつ、自らも第一線のコンサルタントとして、主に組織変革コンサルティング、経営幹部教育プログラムや管理職研修のファシリテーション、企業理念構築や経営ビジョン構築ワークショップのファイシリテーションなどを担当している。企業からはもちろん、昨今は自治体などからの要請による組織変革に関する講演も多い。著書に『マングローブが教えてくれた働き方』『稼ぐチームになるためのすぐやるリーダーの仕事術』がある。
研修には、1日の最後に「アンケート」を書いてもらう習わしがある。これは2つの目的で取るものであるが、なかなか解釈が難しい。
ひとつは、受講者の感想を生かして、今後の研修企画の参考にすること。もうひとつは、受講者の研修への満足度、理解や気付きのポイント、今後への課題感などを把握すること。
何しろ、あくまでもアンケートの質問に対して本人なりの解釈で書くことだから、受け止め方が難しい。受講者の満足度が全員最高レベルであったからといって、いい研修だったのかと言えばそれはそうとは限らない。
非常に楽しい進行で、プログラムも容易に理解でき、楽々と受講できたという場合でも満足度は高いと答える場合がある。その実態はと言えば、頭にあまり汗もかいておらず、ストレッチもかからない状態で楽しさ優先。成長への寄与という点では疑問が残ることもある。
逆に、大満足ではなく「やや満足」という答えが多く、「どちらとも言えない」の人がいるからとガッカリしていると、こちらのほうが受講者の成長への寄与という観点では高い場合もある。難易度の高いプログラムに必死でくらいつき、考え抜いた経験の中で、自分自身の足りない点に気が付き、自分自身への新しい課題感が心の中に渦巻いていての「やや満足」や「どちらとも言えない」であることも多いからだ。
これを研修プログラムへの「評価」と勘違いして、安易にプログラムを易しく改善したりすると、本末転倒になってしまうのだ。従って、アンケートを回収して集計し、そのデータでものを考えることを慎み、きちんと受講者と対話することで真の状況を理解する努力をしなければならない。
同じようなことが、リーダーの存在に対する、メンバーの受け止め方にも言える。組織変革コンサルティングの過程で、社員インタビューをするときに、社長や幹部、あるいは管理職の「評判」に話が及ぶことが多い。
ここで、いわゆる「評判がいい」人が、経営にとっていい存在かといえば、そうではない場合も多いのである。社員から評判がいいという場合に、物分かりがよく、いつも優しく、衝突することもなく、「やりやすい上司」「やりやすい社長」というだけのことも少なくないからである。
BAD&NOオンリーやパワハラは困ったものであるが、長い目で「育てよう」という意識で、肝心なところで妥協しない厳しさがある人に関して、周囲の社員からの「○○さんは、部下に厳しすぎる」などの「評判」に惑わされてはいけない。
アンケートも管理職の評価といったものも、表面的な数字に惑わされず、本質を観る姿勢が重要である。(今野誠一)
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