金融緩和、振り上げた拳をどう下ろす?:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
振り上げた拳は下ろさなければならない。それは誰しも分かっていることだが、残念なことにそれが実感として分かるのは、下ろすときになってからだ。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
振り上げた拳は下ろさなければならない。それは誰しも分かっていることだが、残念なことにそれが実感として分かるのは、下ろすときになってからだ。
いま、そのことを実感しているのはFRB(連邦準備理事会)のバーナンキ議長だろう。米国経済が緩やかに回復していることを受けて、バーナンキ議長は6月19日の記者会見で失業率という「目安」に言及し、現在の「非伝統的金融緩和」を縮小する可能性を示唆した。これを受けて、株価は下落し、債券も下落して長期金利が上昇した。
本来的に、現在の量的緩和(QEIII)、毎月850億ドル(約8兆円)の債券をFRBが購入して資金を市中に供給するという状況をいつまでも続けられるはずがない。管理通貨制度における通貨の信用は、発行量がコントロールされていてこそ維持できる。無闇に通貨を増やして、政府の懐に流し込んだりすれば、超インフレの世界が待っている。それこそ破滅への道だ。
だからこそバーナンキ議長も、超緩和の縮小に言及せざるをえない。もちろん米国の場合、日本と違って景気の回復を確信しているからだろう(日本はまだ実感しているとは言いがたいし、デフレから脱却できるかどうかもまだ分からない)。しかもこの予告を抜きにいきなり金融を引き締めるなどと言ったら、それこそ世界にまだ残っているゾンビ銀行は一気に倒産することになるだろうし、新興国からはたちまちドルが干上がることになるだろう。パニックの再来である。
いまバーナンキ議長ができることは、FRBが自分の行動を市場に予測させることで、金融市場を慣らしていくことだ。それで時間を稼ぐことができるからである。日本でも、日銀の「異次元緩和」によって確かに円は安くなり、株が高くなったが、一方で、長期金利は乱高下した。そして国債を大量に保有している地方銀行は、そろそろ国債を売りに出している。金利が上がれば国債の評価損が発生するからだ。
ある中央銀行関係者に言わせれば、金利上昇が2年で1%ぐらいであれば、銀行は損失をカバーしながら、国債の保有高を減らしていくことが可能だという。つまり「異次元の金融緩和」が突然「異次元の引き締め」に転じたら、銀行は大パニックになるが、1年ぐらいの猶予期間をもって予想できるならば、あらかじめ対応策を練ることが可能だということだ(それでも2年で物価上昇率2%というのは、銀行関係者にとってはヒヤヒヤものだろう)。
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