金融緩和、振り上げた拳をどう下ろす?:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
振り上げた拳は下ろさなければならない。それは誰しも分かっていることだが、残念なことにそれが実感として分かるのは、下ろすときになってからだ。
欧州、中東、新興国。不安はいたるところにある
しかしFRBといえども、世界経済の動きを読み切れているわけではない。不安要因はいくつかある。ひとつは欧州だ。いちおうESM(欧州安定メカニズム)は発足し、銀行支援の形はできたものの、ゾンビ銀行をどこまで支援するかはこれからの課題だ。国政選挙を控えるドイツが支援に反対するようなことがあればユーロ圏内で金融危機が再燃する可能性もある。
さらに中東ではシリアとイランの動向が注目される。先進国はシリアの反政府軍に軍事物資の援助をする意向を固めた。ロシアはアサド政権寄りだが、西側が介入したときにどう動くのか、いまひとつ分からない。中東ではイランに穏健派大統領が誕生した。これ自体は悪くないが、それでも核開発問題がこれで一気に進展するかどうかはまったく分からない。
経済ではもうひとつ、新興国の危機がある。もし市場にあふれているドルの供給が絞られることになれば、新興国から資金が引き揚げられる可能性もある。そうなれば新興国の通貨は安くなり、輸入物価が上がることでインフレの懸念も強まるだろう。いくらシェール革命でエネルギー価格は抑えられると言っても、通貨安によるコスト増は新興国にとって痛い。
さらに中国は別の問題も抱えている。正規のルート以外の「融資ルート」に不良債権が発生した場合、その影響が大手企業に直接及ぶ可能性が取りざたされている。シャドーバンキングと呼ばれるそのルートは、大手企業などが地方政府のインフラ整備に資金を比較的高利で融通するものだ。しかし地方政府が当て込んでいた地方の土地開発が景気の鈍化などで遅れ、地方財政が苦しくなっている。そうなると当然、借金を返済することができず、その資金の出し手である大手の国有企業がそのあおりで資金が回らなくなり、倒産する可能性があるのだという。
2013年になってスタートした習近平政権は、こうした金融市場の歪みを正そうとするかもしれないが、この拳の下ろしかたは何にも増して難しい。地方政府には隠れ借金があるとも言われ、下手に手をつけるとこれまでの矛盾が一気に噴き出して、経済成長どころではなくなる可能性もあるし、就職できない若者の不満が制御できなくなることもあり得る。
もちろん中国がこういった状況になれば、日本も無傷ではすまない。中国という大きな貿易相手がつまずけば、少なからぬ影響があるだろう。世界各地で起きているようなデモになったら、日本企業も当然巻き込まれる。そうした内部の不安があるときは、外部(例えば尖閣諸島)に国民の目をそらすという欲求が高まるときでもある。
いま世界経済はあちこちで矛盾を抱えながら動いている。そして何よりも、先進国がこれほど経済的に弱体化したことはないのである。つまり、どう理屈をつけても、いまわれわれは海図なき航海に乗り出してしまった船のようなものだ。どこに岩礁があるのか、どこに巨大な渦があるのか、誰も知らない。振り上げた拳の落としどころを間違うと、とんでもないところで難破しかねないのである。
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