なぜメジャーリーガーは「クスリ」がやめられないのか?:臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(3/4 ページ)
メジャーリーグに再びドーピング疑惑が起きている。Aロッドら主力級の選手が禁止薬物の提供を受けていたというのだ。彼らはなぜ「クスリ」に手を出してしまうのか?
なぜメジャーリーガーは「クスリ」をやめられないのか?
それでは一体なぜ、メジャーリーガーは薬物渦から抜け出すことができないのか。米3大ネット放送局「NBC」でプロアメリカンフットボールリーグ「NFL」の解説者を務めるロドニー・ハリソン氏(現役時代はサンディエゴ・チャージャーズ、ニューイングランド・ペイトリオッツで活躍)は「あくまでも同じプロスポーツを経験した者としての個人的見解だが」と前置きした上で先日、厳しい表情を浮かべながら次のように述べた。
「『マグワイア発言』が一部メジャーリーガーたちのモラル低下を招いているような気がする。あのようなことで賞賛されるのは他のスポーツを見渡してもMLBだけだ。少なくともNFLでは絶対に考えられない」
ハリソン氏の指摘した「マグワイア発言」とは2010年1月11日、元メジャーリーガーのマーク・マグワイア氏(現ドジャース打撃コーチ)が現役時代のステロイド使用を認めたことだ。マグワイア氏は1998年のセントルイス・カージナルス在籍時にメジャー記録を更新する年間70本塁打を放つなど、通算583本塁打をマーク。2001年の引退後は、再三ウワサされていた自らの薬物使用疑惑に関して沈黙を保っていた。
ところが、2010年のシーズンから古巣カージナルスの打撃コーチに就任することになると開幕前に突然「すべてを明かしたい」と言い出した。このまま2月のキャンプを迎えれば報道陣から執拗に薬物疑惑を追及されるのは避けられない。マグワイア氏が「シャバに出るには自白が必要」と踏んだのは誰の目にも明らかであった。
「私は愚かな過ちを犯していた。絶対にステロイドに手を出すべきではなかったし、心から謝罪する」――。このマグワイア氏の涙ながらの謝罪にカージナルスのトニー・ラルーサ監督(当時)は「マークに対する敬意が増した。彼の勇気と意欲を褒めるべき」と絶賛。そしてセリグ・コミッショナーまでも「マグワイア氏が現役時代の筋肉増強剤の使用に目を背けず、向き合ってくれたのはうれしい」と声明を出した。
MLBにとってマグワイア氏は功労者であり救世主だ。1994年に選手会のストライキでファンの野球離れが加速した際、派手な本塁打を量産してメジャーリーグを盛り上げた。同氏の薬物使用が完全否定されれば、当時のパフォーマンスに諸手を挙げて喜んでいたMLB側の姿勢にも批判の目が向けられるのは必至。「よくぞ告白した」と激賞することでマグワイア氏の罪を水に流し、サッと幕引きを図るしかなかったのだ。
確かにマグワイア氏の告白したドーピング行為もMLBが薬物使用者に出場停止などの罰則を課し始めた2004年よりも前の話。厳密に言えばルール違反はしていない。
「だがクスリを使って身体能力を上げるのは倫理上、許される行為ではないはずだ。何よりもスポーツマンとしてフェアではない。マグワイア氏のプレーを見ていたファンが、彼の告白に『裏切られた』と思っても仕方がないだろう。一番怖いのは、今のメジャーリーガーの中から『マグワイア氏が許されているのに、どうしてオレたちは使っちゃいけないんだ?』という声が出てくることだ。そうなれば『バレなければ使ってしまえ』と思うヤツがいたって全然不思議ではない。いっそのことMLBは薬物を使ったプレーヤーの過去の記録もすべてリセットしたら、どうか」(ハリソン氏)
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