なぜサッカーで八百長が起きるのか――不正のメカニズム:公認会計士まーやんの「ロジカるつぼ」(前編)(2/2 ページ)
先日、ICPO(国際刑事警察機構)主催の、とある会議が開催されました。議題は「サッカー界における八百長の防止対策」。八百長といえば、少し前に日本でも大相撲が話題になりましたが、どうやらサッカー界のそれは大相撲の比ではないようです。
審判における不正のトライアングル
(1)動機・プレッシャー
多くの場合、審判は「1試合あたり12万円」という形で報酬を受け取っています。12万円というのはJ1リーグの主審の場合ですが、そもそも年間での試合数が限られている中でこの報酬水準は決して高いものとは言えません。日本ですらこうなので、他の国ではもっと過酷な条件下におかれているかと思われます。
そんな審判に対して「ホームに勝たせるように工夫して欲しい」と100万円程度の報酬で働きかけたら、なびいてしまうこともあるだろうと思います。実際、八百長に加担したとして摘発される審判の多くが途上国の人だったりします。
(2)機会
審判が八百長に加担する方法はいろいろとあります。ペナルティキックとなるようなファウルを厳しく認定したり、警告や退場を特定のチームに偏らせたり、ロスタイムを操作したり。あまりにもあからさまだと事後的に無効試合になることもありますが、そうならない範囲でスコアメイクすることも、まったくの不可能というわけでもなさそうです。
日本代表の試合でも、思わず「おい、今のファウルだろ、PKだろ!?」と叫んでしまうサッカーファンはいると思います。サッカー解説者ですら冷静さを失うこともあります。それほどまでに審判の判定というのは、非常に微妙で繊細なものだということです。
(3)正当化
不正を正当化する最もポピュラーな言い訳が「ほかの人もやっている」です。そもそも八百長が起こりやすいサッカーという競技自体が、この正当化を助長しているという指摘もあります。だからこそ、FIFAは事後的に不審なゲームの検証をしたり、あるいは背後につながっている闇組織を根絶するためにICPOと手を組んだりしているわけです。
また、金銭的に苦しい環境にある審判であれば「家族を養うため」といった切実な理由もどこかにはあるのかもしれません。
サッカー界から八百長を追放するためのアイデアを考えるときには、この不正のトライアングルを意識することが必要です。
例えば、動機・プレッシャーを排除するためには「審判員の待遇を改善する」といった発想がすぐに浮かびます。機会を排除するのであればロスタイム方式ではなく、プレイが停止した場合には時計を止めるという方法できっかり90分を測定することもできるだろうと思います。不正の正当化を根絶するのは難しいですが、地道な啓蒙活動や待遇改善を通じた不正へのモチベーションの抑制をしていくことが考えられます。
サッカーの八百長に限らず世の中で起こっているほとんどの不正は例外なく、この「不正のトライアングル」が当てはまります。八百長つながりで言えば大相撲もそうです。あるいは企業の粉飾やインサイダー取引、ちょっと古いネタですが食品の産地偽装などもそれに当たります。不正に関するニュースを目にしたときは、ぜひこの「不正のトライアングル」を思い出してみてください。
次回はもう少しサッカー界の八百長を掘り下げてみたいと思います。審判たちに八百長を働きかける「黒幕」……。ちょっと怖い話になるかもしれません。(眞山徳人)
※この記事は、誠ブログの公認会計士まーやんの「ロジカるつぼ」:八百長はなぜ起こるのか?サッカー界における「不正のトライアングル」 1/2より転載、編集しています。
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