中国の“リコノミクス”、抵抗勢力をねじ伏せる覚悟はあるか?:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
中国からまた暗いニュースが流れてきた。同国の成長率が政府の公式発表よりも大きく鈍化しているのではないかという指摘だ。輸出主導、投資依存型の高度成長からの転換期にある中国の今後は?
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
アベノミクスが功を奏して消費税増税を吸収できるのか、それとも2014年に予定される消費税増税で景気の腰が折れるのか、それとも消費税引き上げを見送って日本国債が売られ、長期金利の上昇を招くのか。この秋の安倍首相の決定は、まさに日本の岐路になるのかもしれない。
とにかく時間がない。世界を見回してみれば、米国の景気はよろよろしながらも回復基調にあるように見える。欧州はまだまだ問題(ゾンビ銀行の処理)があるがこれ以上悪くなることはなさそうだ。しかし前回書いたように中国を始めとする新興国は、減速が目立っている(参考記事)。その意味では、日本が早くデフレから脱却し、成長軌道に乗ることが世界経済の観点からも必要とされている。
中国の成長は大幅鈍化? 粉飾された数字で正体見えず
ひとつのリスク要因となっている中国からまた暗いニュースが流れてきた。みずほ証券アジアのチーフエコノミスト沈建光氏が、顧客向けのリポートで中国の成長率は公式発表(7.5%)よりももっと大きく鈍化していると指摘したことが話題になった。またこの7月の広東省の電力消費量が伸び悩み、前年同月比で0.1%のマイナスとなったという。しかも広東省の同じ時期の成長率は12.9%と、あまりにも対照的な数字が出ている。
広東省は珠江デルタという一大工業地帯を要し、その生産額の60%以上は輸出だ。その製造業が電力消費の過半を占める。ここで電力消費が伸び悩んでいるときに、これだけの成長率が確保されるはずがないという見方が強い。それに広東省の電力はこれまでいつも不足が問題になっていた。それが前年同月比でわずかとはいえマイナスになったことの意味は決して小さくはない。
中国の統計が信頼性に欠けることはずっと指摘されてきたが、それでも広東省という重要な省でここまで電力消費と成長率の差が広がるのは尋常ではない。2カ月ほど前、北京政府は輸出業者が中国と香港の「国境」をまたいで製品を行ったり来たりさせて、輸出額を水増しするのを禁じたばかりだ。この操作によって香港への輸出額は、異様に(2009年以前の倍)伸びていた。
こうした統計操作が発生するのは、地方政府での実績が出世のパスポートになるという中国官僚機構の構造がある。北京政府は現在、こうした統計数字の粉飾を是正すべく動いてはいるが、輸出を中心とする実体経済が悪いだけに、まだしばらくは収まるまい。
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