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日本人所有の零戦が日本に「帰還」できない理由:伊吹太歩の世界の歩き方(4/5 ページ)
現存する飛行可能な零戦を日本の財産として帰国させる動きがある。しかもそれは日本人が所有しているというのだ。だが、なかなか前進しないのはなぜなのか?
歴史的な戦闘機はその国の遺産である
ちなみにこの零戦をめぐっては、石塚氏以外にも、零戦を「日本の財産」と考える人たちの思いが詰まっているようだ。リストアの際には、米訪問中だった海部俊樹元首相が機体を視察に訪れたこともあった。関係者によれば、ハンナー氏側のお願いに応える形で、もともとの製造元である三菱重工業なども零戦の設計図を提供した。もちろんハンナー氏も自ら資金を投じた。
石塚氏は「日本は限られた資源と工業力の中で、1940年初頭に世界で最も優れた飛行機を生産しました。その日本に飛行可能な零戦が1機も現存していない事実は、非常に悲しいことです。戦後日本を支えた工業力と、近代化や技術革新の原点として、零戦は当時の最先端の技術の結集ででき上がっている国力の象徴ともいうべきものだと思っています」という。
実際に、米国などでは、年間70カ所で航空ショーが行われ、第一次大戦時から最新鋭の航空機や戦闘機が披露されている。国の歴史を刻んできた戦闘機や安全保障において国力を目の当たりにできる最新鋭の戦闘機に触れる機会として、航空ショーには大勢の人が集まる。
かつて米国で行われた航空ショーを取材したことがあるが、老若男女が展示を見て回り、記念撮影をし、デモンストレーションを見るために席取りをしていたのを覚えている。会場は人であふれかえっていた。石塚氏によれば「米国や英国などでは、歴史的な戦闘機や飛行機を国の遺産であると認識して、国のヘリテージ(遺産)として積極的に保存レストアしています」。
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