原子力、医療、JR……、「ムラ」の不正はなぜ原因究明ができないのか?:窪田順生の時事日想(1/3 ページ)
事件、事故が起きたときに、その原因を追及するのもムラの人間だ。だから、犯人がムラの外へと逃げてしまったら、それを追いかけて取っ捕まえるということまではしない。
窪田順生氏のプロフィール:
1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。
ちょっと前、「御用学者」とともに、「原子力ムラ」なんて言葉が注目された。
原子力利権にぶらさがる企業や研究者、そして役人やマスコミなどの集団を指し、ズブズブの癒着(ゆちゃく)とベタベタの馴れ合い、そして利権外の者を徹底的に排除する閉鎖性が「村」に例えられたわけだが、実は似たような集合体は他にもある。
例えば、「医療」なんかは分かりやすい。東京慈恵会医大の教授が、降圧剤バルサルタンが脳卒中や狭心症のリスクを減らすという臨床試験を権威のある学術誌『ランセット(The Lancet)』で発表した。えらい先生が格好いい学術誌に発表したデータなら信用できるというわけで、医師たちはこぞってバルサルタンを使うようになり、気が付けば年間1000億円を売り上げた。
しかし、ほどなくこの臨床試験でインチキが行われ、そこに製薬会社の社員(現在は元社員)が関わっていたのではないか、なんて疑惑が持ち上がる。要はヤラセではないかと。これを某週刊誌で取材していたところ、臨床試験に詳しい先生がこんなことをおっしゃっていた。
「日本の大学病院には統計解析のプロがいないので製薬会社に丸投げするしかない。おまけに臨床試験をやるカネもない。つまり、製薬会社のサポートなくしては何もできないのが現実なんです」
ムラの外から見ると、「どう見てもズブズブだろ」という構造的な問題が浮かび上がるが、そこに肩までどっぷり浸かっているムラの住人からすると「ガタガタ騒ぐことじゃない。素人はひっこんでろ」みたいな感じになる。「原子力ムラ」とまったく同じだ。
それがよく分かったのは、慈恵会医大の記者会見をのぞいたときである。
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