原子力、医療、JR……、「ムラ」の不正はなぜ原因究明ができないのか?:窪田順生の時事日想(2/3 ページ)
事件、事故が起きたときに、その原因を追及するのもムラの人間だ。だから、犯人がムラの外へと逃げてしまったら、それを追いかけて取っ捕まえるということまではしない。
ガセネタをつかまされた論文の発行元の人間が、「おたくの大学の名前で論文出しておいて製薬会社の社員が悪いというのは無責任じゃないの?」と食ってかかったら、医学科長がデータ解析はうちらの仕事じゃないんだから不正に気付きようがないだろ、なんて感じで逆ギレしていた。
実際、慈恵会医大が調査した報告書もこんな調子だ。
望月教授以下、研究にかかわった多数の医師は、口をそろえて「データ解析はA社員が行った。自分達には、データ解析の知識も能力もなく、自分達がデータ解析を行ったことはない」(臨床試験「Jikei Heart Study」に関する調査委員会(中間)報告書)
大学病院側はどうにかして、この「A社員」(製薬会社の元社員)のせいにしたい。しかし、この人物も不正などしていないと主張。おまけに、製薬会社もすでに退社している。厚労省が製薬会社に対して本格的な調査に乗り出すという話だが、恐らく真相は明らかにされないのではないか。
原発事故で分かったように、監督官庁もムラの住人である以上、彼らの調査というのはどうしても「自検断」のような感じになってしまう。「自検断」とは「村」の秩序を守るためにおこなわれた独自のルールにのっとった裁きのことだ。例えば、中世の村で殺人事件が起きたら、村人たちは“人ごろし”を排出した「家」を燃やした。
だから、犯人がムラの外へと逃げてしまったら、それを追いかけて取っ捕まえるということまではしない。残された「家」を燃やして一件落着。今回でいえば、問題の社員は辞めてしまったが、彼を排出した「家」にチョロッとつけ火することで、ムラの「平和」を取り戻そうというわけだ。
そんな「自検断」が最近行われたのが「鉄道ムラ」だ。
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