JR北海道不祥事で明るみに出た「鉄道部品コレクション」とは:杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)
鉄道ファンにとって「鉄道部品」は価値のあるものだ。誰にも迷惑をかけないはずの、ささやかな趣味が、マスコミの攻撃対象になってしまった。この趣味もそろそろ健全化への取り組みが必要かもしれない。
発端は善意だと思いたい
盗んだわけではないし、もう時効だろうから告白する。スライス加工されたレールはもうひとつあって、非合法品かもしれない。子供のころ、叔父の知人が国鉄の工場に機械を収めていた。彼は私の鉄道好きを知っていて、その工場にメンテナンスに行く時に私を連れて行ってくれた。そこで現場の職員さんが「絶対にナイショだからね」と言って私にくれた。工場内部では文鎮代わりに使っていたらしい。ナイショの理由は、レールの切れ端とはいえ、当時は国鉄。国民の財産だったからだ。ネジ1本でさえ、個人に勝手に譲渡してはいけない。
もうひとつは電車のスピードメーターだ。こうした計器は精度を維持するために使用期限が決まっているそうで、交換された古いほうだという。これは別の電装業者からのプレゼントである。どうせ捨てるものだからあげるよ、とのことでちょうだいした。いつかクルマに付けてみようと思っているが、実現していない。
国鉄の職員さんも、電装業者さんも、好意でくださったわけで悪気はなかった。私も今日まで約束を守って黙っていた。しかし、こうした事例が「違法流出」の発端かもしれない。根っこは善意なのだ。
職員の制服にしても、長い間、鉄道会社に務め定年退職した人にとって、自分の汗の染み付いた、愛着のあるものを記念に持って帰りたい。そういう気持ちは理解できる。現場では誰もが「どうぞ」となるだろう。ほほえましい光景である。すべては好意で成り立っているはずだ。
鉄道の制服は、当人が記念にする程度なら問題ない。しかし、当人が死去したあと、その制服はどうなるのか。形見分けしてほしいという鉄道ファンの知人がいるかもしれないし、高く売れるなら、と遺族が売却するかもしれない。その先、どこで悪意ある者に渡るか分からない。ここが問題だ。警察の制服ではありえない。
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