JR北海道不祥事で明るみに出た「鉄道部品コレクション」とは:杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)
鉄道ファンにとって「鉄道部品」は価値のあるものだ。誰にも迷惑をかけないはずの、ささやかな趣味が、マスコミの攻撃対象になってしまった。この趣味もそろそろ健全化への取り組みが必要かもしれない。
鉄道中古品コレクションを健全化するために
鉄道中古品店は古物商である。古物商法によると、買い取り価格の総額が1万円以内の場合は身分確認及び帳簿などへの記録が免除される。自動二輪車やゲームソフトなど例外もあるけれど、鉄道中古部品については義務付けられていない。つまり、鉄道の現場から盗まれた鉄道中古部品について、1万円未満で売却されたら、誰が売ったか分からない。入手ルートが不明になってしまう。これは鉄道現場の盗難事件の温床になりうる。また、心ない鉄道職員が小遣い稼ぎに備品を売る可能性も否定できない。
こうした状況の中で、鉄道中古部品収集という趣味を絶やさないためには、どうしたらいいのだろう。手っ取り早い方法は「正規品」を識別する手立てを講じることだ。鉄道会社が中古部品を売却する際に、譲渡証明書をつける。販売時の領収書に、物品の文言や管理番号を付け加えるだけでもいい。鉄道中古部品の販売店やオークションサイトは、その証明書のない物品は扱わない。これだけでもかなり健全化へ近づく。
この方法だと、すでに出回っている鉄道中古部品が再流通できなくなる。そこが問題だ。コレクターが収集品を手放す時、あるいは遺品を家族が処分する時に困る。法的には売却せず廃棄すれば問題ないけれど、それでは他のコレクターが困るし、鉄道史にとって貴重な資料が闇の中に消える可能性もある。何か良い手立てはないものか。中古部品を扱う店が協業し、取り扱い認定証を発行しつつ、鉄道の安全を脅かす中古部品を回収してくれるといいけれど、残念ながら市場規模が小さく、余力のある店もなさそうだ。
鉄道趣味市場の成長を期待し、鉄道会社が鉄道ファンからの売り上げを見込めると思うなら、「鉄道部品コレクション」をビジネスとして取り組み、健全化に取り組んでもらいたい。それが鉄道趣味のモラルを高め、鉄道の安全向上にもなると思う。最悪のシナリオは、鉄道会社が中古部品の販売を取り止めてしまうことだ。「鉄道中古部品を持っている=盗品を集めている」と社会からレッテルを貼られてしまうことだ。
安易に禁止するのではなく、上手に商売を発展させ、鉄道会社と鉄道ファンは良い関係を築きあげることが大切だ。どうか鉄道ファンの趣味を奪わないでほしい。
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