出版不況が続くのに、編集者が生き残るワケ:これからの働き方、新時代のリーダー(中編)(3/4 ページ)
「自分の仕事は、今後も大丈夫かなあ」と不安に感じている人も多いのでは。作家のエージェント集団「コルク」の佐渡島社長は「10年後でも編集者は食うに困らない」という。「出版不況」が叫ばれているのに、なぜ編集者は食っていけるのだろうか。
情報の順番工学
佐渡島:例えば、2020年に東京オリンピックが開催されますが、海外の人に日本をどのようにアピールすればいいのか。従来は「これがあります」「これがあります」「これがあります」といった形でアピールしてきましたが、なんだかよく分からないですよね。1つ1つのことは理解できても、全体のことがよく分からない。なぜか。それは「順番の出し方」に問題があるからです。
推理小説を考えるとき、作家や編集者はどういった作業をしているのか。いろんな情報を「どこのタイミングで与えれば面白くなるのか」――そんなことばかり考えています。情報というのは質を上げたからといって、必ずしも伝わるわけではありません。どういう順番で出していくのかが大切。つまり、編集者の仕事というのは、“情報の順番工学”のようなものなんですね。
土肥:ふむ、ふむ。
佐渡島:油をひいてから肉を炒めるのか、それともいきなり肉を炒めるのか、それによって味は違ってきますよね。料理については順番を気にする人が多いのに、なぜか情報について気にしている人は少ない。
土肥:佐渡島さんの話を聞いていて、これからの編集者はクリエイティブ・ディレクターのような仕事かなと思っていましたが、そうではない。単に見せて喜んでもらうのではなく、見せる順番を組み替えて、より喜んでもらう。
佐渡島:そうです。
土肥:編集者がいま以上に活躍して、“情報の順番工学”が広まっていくと、日本は変わりそうですね。
佐渡島:変わると思いますし、変わらなければいけません。いまの日本は悩んでいます。例えば、ドラマ『半沢直樹』が大ヒットしましたが、その背景には多くの日本人が悩んでいるからではないでしょうか。主人公は仕事のことで悩んでいた。そして銀行の問題を解決するために、いろいろなことをしてきました。
でもこの話が、いまの東南アジアの人たちにウケるでしょうか。私はそう思っていません。東南アジアの経済はものすごい勢いで成長しています。未来の成長を信じて前を向いている環境のなかでは、『半沢直樹』のような話は支持されないでしょう。
いまは支持されないかもしれませんが、東南アジアもいつか必ず日本と同じような経済状況になります。経済成長が頭打ちになったとき、そのときこそ日本は打って出るタイミングなのではないでしょうか。それはコンテンツだけに限らず、さまざまな分野でも同じことが言えるでしょうね。
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