時代の空気を読めない男が、“ヒット作請負人”になれた理由:これからの働き方、新時代のリーダー(後編)(2/5 ページ)
『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』といった漫画の編集を手掛けてきた、コルクの佐渡島さんはどのようにしてヒット作を生み出してきたのだろうか。その秘密を聞いたところ「自分は時代の空気を読まない」と意外な答えが返ってきた。
口コミ効果は大きい
土肥:いま「宣伝方法などで工夫」と話されましたが、佐渡島さんの工夫はとてもユニークですよね。例えば、『宇宙兄弟』のときには美容院に本を置いて回ったとか。
佐渡島:はい。『宇宙兄弟』の場合は、20代の女性に読んでもらいたかった。「宇宙」と聞くだけで、この層の人たちは興味を示しません。でも兄弟の関係とかストーリーの雰囲気は、20代の女性でもハマると思っていました。
でも本のタイトルや装丁などは、20代の女性を遠ざけるものになっていました。ちょっとでも近寄ってもらえるように、美容院に本を置いてもらうように本を400冊ほど配りました。
土肥:美容師って、お客さんの髪を切るときにいろいろと話をしますよね。「いまはこのドラマが面白いですねえ」といった感じで。そこで「いま『宇宙兄弟』にハマっているんですよ。面白いですよー」と言ってもらえれば、口コミ効果としては大きいですよね。
話を聞いたお客さんは気になるので、ちょっと読んでみたくなる。髪を切ってもらっているときに、『宇宙兄弟』の本を読む。そして面白かったら、帰りに本屋で買うかもしれない。こうした口コミ効果もやはり計算に入れていたのでしょうか。
佐渡島:口コミをどうやって広げていけばいいのか、といったことを考えていました。「口コミ」と聞くと、ネット上のシェアを思い浮かべる人が多いかもしれません。例えば、Facebookで100人がシェアするだけでも、かなりの数字ですよね。
もちろんネット上の口コミも大切なのですが、私は美容師に注目しました。美容師は1日に何人担当しているのか。実際、美容院に行って話を聞いたところ「1つの席に1日3人くらい」とのことでした。お店に10個の席があったら、1カ月に900人のお客さんがやって来る。仮に3カ月ごとに来店するとしたら、1店舗につき2700人。そのうち1500人くらいに話してくれれば……と思いました。
土肥:それはかなりの数ですね。そんなにたくさんの人に話してくれますかね。
佐渡島:美容師さんって、同じことを話す傾向がありますよね。(笑)
土肥:ハハハ、確かに。私の知り合いは、このように言っていました。「同じ美容師がいつも同じことを聞いてきたり、話してきたりするので、髪の毛を切ってもらっている間は“狸寝入り”する」と。
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