時代の空気を読めない男が、“ヒット作請負人”になれた理由:これからの働き方、新時代のリーダー(後編)(3/5 ページ)
『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』といった漫画の編集を手掛けてきた、コルクの佐渡島さんはどのようにしてヒット作を生み出してきたのだろうか。その秘密を聞いたところ「自分は時代の空気を読まない」と意外な答えが返ってきた。
空気がないところに、空気をつくる
土肥:冒頭、佐渡島さんは「私が編集に携わってきた作品って、時代の空気を読んでいない」と話されました。この言葉の裏に、ヒットの秘密があるように感じるのですが。
佐渡島:時代の空気を読むのではなく、その作品で空気を変えたいと思っています。例えば『ドラゴン桜』の連載が始まる前、東大生の多くが「東大生であること」にどこかコンプレックスを感じていました。どこの大学に通っているの? と聞かれても「えと、その……(小さな声で)東大です」といった感じで。
それは東大卒の人も同じでした。東大卒ですか? スゴいですね、と言われると「えと、その……」といった対応をする人が多い。当時は「東大生であること」「東大卒であること」に対して、なんとなく“誇れない空気”が流れていたんですよね。
でも『ドラゴン桜』がヒットしてから、時代の空気が少し変わったのではないでしょうか。例えば、ヒット後に東大にまつわる本がたくさん出ました。
土肥:そういえば『東大合格生のノートはかならず美しい』という本が出て、かなり売れましたよね(関連記事)。このほかにもいわゆる“東大本”がたくさん出て、ちょっとしたブームになりました。でもその火付け役が『ドラゴン桜』であることは、多くの人は忘れてしまっているのでは。
佐渡島:残念ながら……。また、数年前から宇宙が注目されていますよね。宇宙に関するニュースをよく見たり、聞いたりするようになったのですが、こうした傾向は『宇宙兄弟』がヒットしてからなんですよね。でも、これも意識しない人が多い。意識されないくらい浸透するほうがいいのです。
「私が編集に携わってきた作品って、時代の空気を読んでいない」という話をしましたが、私は“空気がないところに、空気をつくっていきたい”。そのためには「自分がいい」と思った作品を信じて、編集していくしかないんですよ。
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