時代の空気を読めない男が、“ヒット作請負人”になれた理由:これからの働き方、新時代のリーダー(後編)(4/5 ページ)
『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』といった漫画の編集を手掛けてきた、コルクの佐渡島さんはどのようにしてヒット作を生み出してきたのだろうか。その秘密を聞いたところ「自分は時代の空気を読まない」と意外な答えが返ってきた。
仕事をしていて「良かった」と感じた瞬間
土肥:「『自分がいい』と思った作品」と話されましたが、具体的にはどんなモノなのでしょうか。
佐渡島:純粋に、自分の心がどれだけワクワクしたかどうかですね。人間の心って、意外とワクワクしないものですから。
土肥:例えば『宇宙兄弟』のとき、1話目を読んだときにワクワクされた?
佐渡島:ちょっと違いますね。私は、作家の小山宙哉さんを新人時代から担当していますが、彼のことを「スゴい作家になる」と言い続けていました。でも周囲の声はちょっと違っていました。「本当に?」といった感じで。でも、私は「スゴい作家になる」と信じていました。
『宇宙兄弟』の1話目は50ページくらいなのですが、それが完成するまでに500ページ以上描いてもらっています。
土肥:ということは、10回以上描き直してもらっている(汗)。
佐渡島:原稿を読んで「ダメだと思います」、修正してもらった原稿も「ダメだと思います」、さらに修正してもらった原稿も「ダメだと思います」といった感じですね。そんなやりとりを繰り返して、最後に「これ、“鉱脈”がありそうです」と言いました。
1話目の仮原稿ができたとき、それをカバンの中に入れていました。飲み会があったときには、その場にいた人たちに読んでもらう。そして、反応を聞く。自分でも何度も何度も読む。そして「よし、大丈夫だ!」と思ったときに、連載をスタートさせる自信が湧いてきました。
土肥:そのときって、どのような感覚なのでしょうか。
佐渡島:「『この作品は面白い』と感じない人は、もう友達になれない」といった感覚ですね(苦笑)。連載がスタートするまでに、半年ほどの時間がかかりました。それまでにものすごく入れ込んできたので、そんな感覚になるのでしょうね。
土肥:連載がスタートするまでに半年……その間、小山さんは無収入ですよね。佐渡島さんからダメ出しをされて、何度も何度も描き直しても、原稿料は発生しない。幸いにも半年後に連載をスタートさせることができましたが、ひょっとしたら連載自体がボツになっていたかもしれません。
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