バス停の広告にはどんなメリットが? あまり知られていない効果:杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)
今までのバス停の広告は、停留所名の下の小さなスペースで、近隣の商店の名前と電話番号のみ。いったん掲出されたらずっと変わらない、という印象だった。それがバスシェルターになってから有名ブランドの広告に変わった。
ターゲットはバス利用者だけではなかった
そうはいっても、同じバス路線でも、都心のバスターミナルと郊外の終点付近では乗降客数が違う。都心の駅に隣接したバスシェルターの価値は高く、広告主に人気だろう。しかし、その路線も郊外へ向かうに従って利用者が減り、終点付近のバスシェルターは価値が低く不人気になるはずだ。
これに対して、エムシードゥコーの回答は明快だ。広告をバスシェルター単位でバラ売りせず、都市や地方という「面単位」で販売している。バスシェルターに広告を出すのではなく、都市そのものに広告を出すという考え方だ。駅前や都心部の高い広告価値を元に、街全体のバス停留所をバスシェルターに変えれば、自治体やバス会社の負担なく街全体の景観を向上できる。
ただし、この売り方は広告主にとって、強い媒体と弱い媒体の抱き合わせに見える。しかし、実際にバスを利用してみると、点ではなく線、そして面で展開したほうが、広告の認知度を高める上で効果的だと理解できる。バスの乗客は1回のバス利用でバスシェルターに2回接するからだ。乗車時と降車時。この「2回」が重要だ。
たいていの屋外看板は、歩行者がそこを通過するときに1回しか接触しない。複数回接触させるには、歩行者の動線をリサーチする必要がある。その動線は無数のパターンになるはずだ。しかし、バスシェルターは確実に2度見せる。往復なら4回である。駅前や都心部に通う人々に対して、他の屋外広告よりずっと広告効果が高いわけだ。
もうひとつ興味深いデータがある。バスシェルターの広告は、バス利用者と同じくらいかそれ以上に、バスを利用しない歩行者やクルマ利用者に訴求するという。エムシードゥコーの調査によると、最も多く広告に接触する人は歩行者で、広告接触者全体の48.0%になる。次がクルマやタクシーの利用者で29.8%。これに対して、バスを待つ人、バス乗車中の人を合計すると28.2%となっている。
バスシェルターはバス利用者のために作られている。しかし、その広告価値は都市のあらゆる人々に向けられている。その広告媒体力は、もともと都市が持っている価値であった。都市の力が、バス路線のサービス向上、景観の向上に還元されているとも言える。
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