「山崎製パン」が自社トラックを持っているのはなぜか:数字のオモテとウラを学ぶコラム(3/4 ページ)
高速道路で立ち往生している人に、トラックの荷台に積んでいたパンを配った――。山崎製パンのドライバーが話題になりましたが、そもそも同社はなぜ自社トラックを所有しているのでしょうか。今回はその謎に迫ってみました。
自社トラックを持つ背景
しかし、今回活躍した山崎製パンのトラック。トラックの車両を見たことがある人もいると思いますが、トラックには「ヤマザキ」のロゴがしっかりと書いています。つまり山崎製パンのトラックは運輸業を営んでいる外部の会社のものではなく、自社グループで確保している車両だったということを意味します。もし仮に、パンを積んでいたトラックが山崎製パングループのものではなく、どこかの物流業者のものだったとしたら、今回のようなエピソードは生まれなかったはずです。
山崎製パンではグループ内に物流の子会社を2つ持っており、そこが工場から店舗などへの配送の大部分を引き受けています。
しかし、ここで素朴な疑問が湧いてきます。なぜ山崎製パンは、現在の潮流を踏襲して、物流を全面的にアウトソースしないのでしょうか?
トラックを自社で持てば、トラックの減価償却費、維持費、駐車スペースなどの固定費を抱えることになります。しかも最近はエネルギーコストの高騰などが目立っています。売上がせっかく増加してもなかなか利益増加に結びついてこないのは、多分にそういった背景が含まれているのです。
それでもなお、山崎製パンが自社グループ内で物流網を確保するのには、以下のような理由があるからだと推測できます。
理由1:十分な供給量
山崎製パンの製品は、自社グループで運営している「デイリーヤマザキ」「不二家」などの店舗のほか、各社コンビニ、スーパーなどに輸送しています。基本的に同社が扱う製品は「生活必需品」の部類に入るため、景気や季節による変動はそれほど大きくありません。パンを広範囲に、安定的に、しかも大量に供給するのであれば、自社グループのトラックをフルに生かすことができます。
もっとも、山崎製パンも全ての物流をグループでまかなっているわけではないようです。例えば「不二家」のケーキなどは、売れ行きに季節的なブレがあります。ピーク時には外部の輸送業者を併用することで、無駄なコストを抑えながら製品の供給を行う体制がとられていることが推測されます。
理由2:トレーサビリティ
日本語で「追跡可能性」と訳されるトレーサビリティ。10年ほど前に騒ぎになった食品偽装などの事件をきっかけに、「食の安全」に関する意識が非常に高まってきています。
例えば、工場を出て店舗に届くまでの間に、大事なパンに異物が混入したら……その責任があくまで輸送業者にあったとしても、山崎製パンのイメージダウンは避けられません。パンを作るだけでなく、店舗に届けるところまでをしっかり自社の管理下におくことで、食の安全性を自社でコントロールすることが可能になるのです。
関連記事
- セブン&アイが、過去最高益を計上した理由
セブン&アイ・ホールディングスが、2013年3〜11月第3四半期で過去最高益を計上しました。同社は誰もが知るコンビニやスーパーのチェーン店を抱えていますが、なぜこのタイミングで最高益を実現することができたのでしょうか。決算短信を見ると……。 - なぜコンビニのクリスマスケーキは売れるようになったのか――知られざる裏事情
数年ほど前から、コンビニのクリスマスケーキが売れている。理由の1つに「おいしくなった」ことが挙げられるが、それだけでもないらしい。大手コンビニの本部で働き、現在はコンビニオーナーを務める筆者が裏事情を明らかにした。 - ローソンのコーヒーは誰が飲んでいる? データから見えてきたコト
「コーヒーはコンビニで買う」という人が増えてきているが、一体どんな人が購入しているのだろうか。ローソンのPontaカードを分析すれば「どういった人が何を買ったのか」が分かるので、担当者に直撃。男性20〜40代がよく飲んでいるのは……。 - コカ・コーラのようなマーケティングが、日本でできない理由
とあるコンサルティング会社が発表した「企業のブランド価値」ランキングによると、「コカ・コーラ」が13年連続でトップ。日本企業を見ると、トップは「トヨタ」で10位どまりだ。Neo@Ogilvyの山崎浩人さんは、コカ・コーラはある特徴的なマーケティングをしているという。それは……。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.