ウクライナはロシア“最後”の緩衝地帯:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
ロシアが軍事介入を行い、混乱しているウクライナ情勢。ウクライナがロシアにとってどれだけ戦略的に重要な場所であるのか、藤田氏が解説する。
ロシアの“緩衝地帯”として重視されるウクライナ
ソ連が崩壊して以来、ウクライナは東のロシア、西の欧州の間で揺れ動いてきた。2004年の大統領選挙で親西欧のユシチェンコ候補が毒殺されかけたという事件がある。犯人はロシア側の人間とされたが、生き残ったユシチェンコ氏が結果的に勝った。
ロシアにとってウクライナとは、自国と西欧の間にある緩衝地帯だ。ソ連だったころの時代には、いわゆる東欧という緩衝地帯があった。ハンガリーやチェコ、ポーランド、ルーマニアなどである。ソ連が崩壊してからというもの、これらの国は、次々にEUや軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)に加盟した。ロシアは現在NATOの準加盟国になっているが、西側に対する警戒感を捨てたわけではない。
こうした状況で、ウクライナはロシアにとって、最後の緩衝地帯となったのだ。ウクライナが親西欧になれば、ロシアは安全保障上、丸裸ということになる。地図を見れば分かるが、ウクライナからモスクワまで、大きな自然の障害はない(これが過去のロシアが領土拡張主義をとってきた1つの理由でもある)。
その意味では、ウクライナはロシアにとって絶対に失いたくない“同盟国”だ。だから他国にも関わらず、ヤヌコビッチ大統領をあからさまに支援し、内政にも干渉してきた。ロシアでガス事業を独占するガスプロム社が、かつてウクライナとの間でガス紛争を起こしたのも、親西欧政権に対する嫌がらせという側面もあった。
ウクライナに帰属するクリミア自治共和国は、さらにロシア寄りの地域でロシア系住民が6割を占める。軍事的にも要衝の地であり、ロシア黒海艦隊の基地、セバストポリもある。なので、クリミア半島を西側寄りの国に押さえられてはまずいのだ。できればウクライナから切り離し、ロシア領に組み込まないまでも、独立した親ロシア政権を立てたいだろう。
ロシアの軍事介入に欧米はどう対応するか
欧米はどんな手を打つのか。口先では制裁をちらつかせても実際には難しい。厳寒期は過ぎたとはいえ、ロシア産のガスは欧州で25%のシェアがある。もちろんロシア側も資源が売れなくなるのは大きな打撃になるため、そう簡単に“元栓”を締めたりはしないだろうが、欧州にとってエネルギーは大きな問題だ。その観点からすれば、とりあえずこれ以上、この問題をエスカレートさせないことが重要な目標になる。
日本にとってウクライナは地理的に遠い国だが、対ロシア政策で欧米と足並みをそろえることになれば、ロシアから石油やガスを輸入するプロジェクトへの影響が懸念される。もちろん北方領土問題や平和条約の締結は、もっと難しくなるだろう。エネルギー源の多様化が急務となっている日本の足元を見て、ロシアが揺さぶりをかけてくる可能性もあるのだ。
2013年にロシアのプーチン大統領と4回、2014年入って早くも1回会談している安倍首相。この欧米とロシアが対立する中をどう舵取りするつもりなのだろうか。天気が大荒れの上、岩礁も多いこの水域で、航路の選択は難しい。
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