鮮魚流通業界のAmazonを目指す、八面六臂の挑戦:これからの働き方、新時代のリーダー(1/3 ページ)
「ITを使って、日本の魚食文化を活性化する。もっとおいしい魚を食べてほしい」――鮮魚流通ベンチャー、八面六臂(はちめんろっぴ)の松田雅也社長の思いだ。
「ITを使って、日本の魚食文化を活性化する。もっとおいしい魚を食べてほしい」――鮮魚流通ベンチャー、八面六臂(はちめんろっぴ)の松田雅也社長の思いだ。
四方を海に囲まれた日本において、食を始めとする文化の中で水産物が占める割合は大きい。寿司や刺身など多様な魚食文化は、クールジャパン戦略の一翼を担っている。
水揚げされた魚が漁師から消費者に届くまでには、漁協や市場、仲買人など多くの中間業者が介在している。他国に類を見ないほど「きちんと」構築されたこの構造によって、消費者は日本全国どこにいても鮮魚を購入できる。
だが、手元に届く魚は本当に旬のものなのか? 一番おいしいものなのか?
この十数年、鮮魚流通の仕組みに大きな革新は起きていない。漁師や流通業者の高齢化、零細化という課題も見えている。ITと物流を駆使し、全国各地の鮮魚を飲食店に直接届けている八面六臂の狙いを松田社長に聞いた(聞き手はBusiness Media 誠編集部の岡田大助、以下敬称略)。
松田雅也(まつだ まさなり)/1980年、大阪府生まれ。京都大学法学部を卒業後、UFJ銀行に入行。1年半でベンチャーキャピタルに転職する。2010年10月、自身3度目の起業となる「八面六臂」をスタート。
メディア化した鮮魚注文アプリで潜在ニーズを開拓
岡田: ITを使って既存の流通網を効率化する事業者はそれぞれの業界で登場していますが、その中でも八面六臂のサービスは非常にユニークだと思います。まず、顧客となる料理人に、注文アプリを入れたiPadを無償貸与していますよね。みなさん、拒否反応はないのでしょうか?
松田: これまでの鮮魚の仕入れ、つまり発注作業の約9割が電話かFAXでした。だから、料理人さんの中には「iPadを使ってください」という申し出にとまどう人もいます。でも、日常生活ではスマホを使いこなしている(笑)。一度、アプリを体験してもらえれば、みなさんその後はスムーズに使っているようです。
岡田: そのアプリですが、使いやすさだけではない仕掛けがあるそうですね?
松田: 魚の名前、産地、大きさや重さ、価格が写真と一緒に一覧表になっています。ここから選んで発注する以外にも、手書きで「鯛、3キロくらい」「いつものアジ5本(大きめ)」と送ってもらってもOKです。手書き欄には、注文だけでなく、イラストやメッセージが添えられていることも多いですね。
紙ベースのやり取りと比べて、アプリやWebサイトなどのITは、情報量の多さ、即時性、ユーザーごとのカスタマイズの容易さなどが圧倒的なわけです。その結果、販売力がぜんぜん違ってきます。
例えば、八面六臂の場合、日本全国の漁師、産地市場、築地市場から魚を仕入れています。すると、注文リストの中には料理人が知らない魚も出てきます。それを写真と説明資料、料理方法なども添えて八面六臂側から提案します。
これまで「マグロ、カツオ、タイ……」のように定番の魚しか仕入れていなかった飲食店が、旬の魚を使った独自性のあるメニューを打ち出して、売り上げ拡大につながった事例もたくさんありますよ。
岡田: 顕在ニーズだけでなく、「偶然の出会い」のような形での潜在ニーズの掘り起こしができているのですね。
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