利用者激怒、信頼失墜……交通機関のストライキに効果はあるのか?:杉山淳一の時事日想(3/6 ページ)
3月20日、関東バスと相模鉄道・相鉄バスの3社がストライキを決行した。法律に基づいた行動だが、利用者からは歓迎されず、現場の労働者自身が批判の矢面に立たされている。労働争議の手法は長い間変わっていないが、そろそろ新たな戦術が必要ではないか。
JR貨物はストライキの遺産を引きずっている
ストライキが起きた理由は分かった。それぞれ主張がありそうだから、会社と労働者、どちらが悪い、という話はしない。しかし、交通機関の労働者にとって、ストライキという戦術は最善か、という疑問は残る。社内のもめ事で顧客に迷惑をかけていいのだろうか。どんな会社にだって社内にトラブルはある。労使関係が良好な会社ばかりではない。しかし「なるべく顧客には迷惑をかけない」という方向では両者の意思は一致していると思う。顧客が離れてしまえば、会社の存在そのものが危ぶまれ、働く場所そのものがなくなってしまうからだ。
首都圏の通勤路線は他社との競合が少なく、顧客離れは起きにくい。だからストライキをやっても顧客離れは起きない。もし労使がそう考えているならば、利用者を人質に取っているようなものではないか。
鉄道はストライキをやっても大丈夫、なんてことはない。過去のストライキで顧客を失い、いまでも信頼を回復できない鉄道会社は存在する。JR貨物である。JRグループ発足前の国鉄時代、1975年11月26日から12月3日に国鉄の労働組合は8日間も列車を止めるストライキを決行した。当時の国鉄職員は準公務員としてストライキが認められていなかった。これを不当として「ストライキをする権利を獲得するためのストライキ」を実施した。後年に「スト権スト」と呼ばれる事件である。
「スト権スト」は旅客にとって大迷惑なだけではなく、物流にも大打撃を与えた。当時は鉄道貨物輸送の依存度が高かったからだ。空調装置も満足ではない時代、貨車に積んだ魚が、野菜が腐っていく。工業製品も納期までに顧客に届かない。そして、納期に届かなかった場合の違約金は荷主が顧客に負担する。国鉄からの補償はなかった。
これに対して荷主たちは激怒し、トラック輸送に切り替える荷主が続出した。さらに国鉄の赤字が問題となり、運賃が50%以上も上がった、全国で高速道路が次々と開通した時期でもある。ストライキだけが原因とはいえないが、この時期にモータリゼーションが加速した。
鉄道はあらゆる事故に対して予見し、対策をしている。だから安心して荷物を任せた。しかし、ストライキという最大の人為的事故を回避できなかった。これは荷主に対する裏切りともいっていい。運輸業界や荷主の経営者の世代はスト権ストの記憶が残っている。鉄道を見限って以降、トラック輸送のための設備投資も続けてきた。その投資額を考えれば、いまさら鉄道に戻れない。ストライキ権ストライキは40年も前の話とはいえ、鉄道貨物輸送の不信感の根底にあり、いまもモーダルシフトの阻害要因だ。JR貨物は、そんな過去の遺産を払拭するために、定時運行を維持し、スピードアップの努力を続けている。
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