利用者激怒、信頼失墜……交通機関のストライキに効果はあるのか?:杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)
3月20日、関東バスと相模鉄道・相鉄バスの3社がストライキを決行した。法律に基づいた行動だが、利用者からは歓迎されず、現場の労働者自身が批判の矢面に立たされている。労働争議の手法は長い間変わっていないが、そろそろ新たな戦術が必要ではないか。
鉄道はストライキを実行しにくい?
子供のころの私は、鉄道ストライキというと気分が高揚したものだ。学校が休みになるし、隣の駅まで線路上を歩いてみようか、なんて冒険もできそうだった。昔も今も線路立ち入りは御法度だけど、当時はストライキに入ると線路を歩いて通勤する人も多かった。
厚生労働省の調査によると、1974年のストライキは9500件以上もあった。交通機関だけではなく、あらゆる業種でストライキが起きていた。それに対して2000年代前半は300件、後半は100件、2011年は57件と、1962年の統計調査開始以降最低となった(参照リンク、PDF)。その理由として、労働者の非正規雇用が増え労働組合参加者が減っていること、第三者による調停で解決する事例が増えていること、終身雇用から労働市場の自由化にシフトしたため、会社の待遇が不満なら転職、という、個々の処世術が広まっていることなどが取りざたされている。
鉄道に関しては、近年、ストライキを実施しづらい状況になりつつある。相互乗り入れや自動改札の普及により、1社だけのストライキが他社に影響を与えかねないからだ。例えば、東京メトロ半蔵門線の車両基地は東急田園都市線の鷺沼駅にある。もし東急がストライキを実施すると、ストライキを実施しない東京メトロ半蔵門線も停まってしまう。東武鉄道の乗り入れ車両は運行できそうだ。しかし東武鉄道としては、代わりの電車が来ないなら、自社の車両を渡せない。相互乗り入れをストップするだろう。
ストライキの準備としてあらかじめ車両の貸し借りをしておくとして、始発前に妥結したら元に戻さなくてはいけない。あるいは、半蔵門線の回送電車だけは走らせるか。しかしそれを見た東急線利用者はどう思うだろうか。ストライキ突入後に妥結したら、いかにダイヤを回復させるか。そのあたり、面倒なことばかりである。
電車を走らせたまま「集改札ストライキ」という戦術もある。これは改札口を無人化し、切符の販売もしない。電車は走っているから、お客さんはタダで乗れる。会社にお金が入らないだけで、利用者には迷惑がかからない。ところが、いまや自動改札機が活躍し、もともと無人である。自動改札機は労働組合に加入できないし、駅員が自動改札機の電源を切るという行為が合法なストライキとして認められるだろうか。認められたとして、入場の記録がされないIC乗車券は、相互乗り入れ先の改札機で引っかかってしまう。やっぱり利用者に迷惑をかける。
関連記事
- ご存じ? バス停留所で生まれた、新たなビジネスモデル
自宅の最寄りのバス停が、ある日突然カッコよくなった。屋根がつき、ベンチが付き、ガラスの掲示板にバスの情報がしっかり掲載されている。壁にはオシャレな広告も入っていた。最近、都内ではこのスタイルのバス停が増えているようだ。仕掛け人は……。 - JR東日本は三陸から“名誉ある撤退”を
被災地では、いまだがれきが山積みのままだ。現在、がれきをトラックで運び出しているが、何台のトラックが必要になってくるのだろうか。効率を考えれば、鉄道の出番となるのだが……。 - 観光客はどこに行ってるの? 位置情報のデータから分かったこと
「観光客がどこに行っているかって? そんなの分かるはずがない」と思っている人も多いのでは。実は、ゲームやスマートフォンの位置情報を使って、“観光客の動き”が見えてきたという。大分県の湯布院や岩手県を訪れた人は、どんな特徴があるのだろうか。 - 鉄道ファンは悩ましい存在……鉄道会社がそう感じるワケ
SL、ブルートレイン、鉄道オタク現象など、いくつかの成長期を経て鉄道趣味は安定期に入った。しかしコミックやアニメと違い、鉄道ファンは鉄道会社にとって悩ましい存在だ。その理由は……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.