ITを使った鮮魚流通の革新は「おいしい魚食文化」を取り戻すために――八面六臂:これからの働き方、新時代のリーダー(2/3 ページ)
鮮魚を扱う飲食店に発注アプリ入りのiPadを貸与して、漁師や産地市場とをダイレクトにつなぐ流通ベンチャー、八面六臂。松田社長が狙うのは中抜きによる価格破壊ではない。
ITを使った中抜きで、価格破壊がしたいわけではない
松田: 先ほど「おいしい魚」という話になりましたが……、ところで岡田さん。目の前にカツオを1本、ドンと出されたらさばけますか?
岡田: いや、ちょっとできそうにないですね。
松田: そうですよね。「今日はいいカツオが入りました」と持ってこられても、困る人は多いでしょう。それが生鮮食品の中で鮮魚を扱うことの大きな違いだと思います。魚は、サプライチェーンのどこかで加工が必要です。だからこそ、料理人さんが存在するわけです。彼らが求める最適な流通構造は何だろう? と考えたときに、一番合理的かなという形を追い求めた結果、それを実現するにはITが必要となりました。
岡田: データを駆使した受発注のマッチングによって、既存流通より1日早く鮮魚を店舗に届けられることが八面六臂のキモでした。新鮮さは「おいしさ」につながると思いますが、それ以外にも何か特徴がありますか?
松田: 数十グラム単位から発注できることです。季節にもよりますが、カツオを1本で仕入れると1キロ800円くらいです。カツオという魚はすぐに酸化して、味が落ちてしまう。例えば、金曜日の夜ならば1本単位で仕入れても全部さばけるお店だとしても、月曜日から水曜日の売り口は悪くなります。同じように1本仕入れても、月曜日には半身が残って、火曜日には4分の1が残って……。では、水曜日にカツオを食べたお客さんは、どんな感想を抱くと思いますか?
岡田: この店のカツオは、まずい?
松田: そうです。2度とカツオを食べたいとは思わないでしょうね。ましてや、初めてカツオを食べたとすれば、その店の味が悪いのではなくて、「カツオという魚はまずい」と認識してしまいます。「食べる」ということは、それくらいクリティカルなものです。だからこそ「飲食店」は常に真剣勝負でなければいけない。
「おいしい」という食の本質を追求する料理人さんとしては、常に「おいしい」状態のカツオがほしいわけです。今日、4分の1しか出ないのであれば、1キロ1000円くらいに値段は上がっても4分の1だけを仕入れたいのです。その200円の差を負担してでも、「カツオっておいしいよね」という食文化の維持に成功できる店でないと、生き残っていけないでしょうね。
岡田: 安く、大量に仕入れて、お客さんに格安で料理を出せばいいと思っているフランチャイズビジネスとは正反対ですね。
松田: 数字に走るフランチャイズは、競争が厳しくなるでしょうね。でも、その中にも本気の料理人さんはいます。だから、本部からの仕入れを減らして、八面六臂に切り替えた店もあります。4分の1だけほしい料理人さんがいるなら、そういうお店を4店舗集めておけばいいだけです。目先の数字だけを求める格安飲食店が生み出した「食事がまずい時代」に、おいしい料理を出す店を増やすことで対抗します。
わたしたちは、単純に鮮魚という商品の流通をやるだけでなく、それがきっちりとした情報とともに消費者へ伝わっていくことにも付加価値があると思っています。だから、店舗に対して魚料理が売れるためのお手伝いもします。旬の素材の情報提供にとどまらず、メニュー開発、ポスターやPOP作成も重要なサービスの一つです。また、今後は商品と情報だけでなく、海外で出店したいというニーズがあれば、料理人さんの派遣、紹介といった人材の流通もします。そういった商品と情報と人材の複合流通を通じて、ドバイやシンガポールにもやがて鮮魚を届けていきます。
関連記事
- 鮮魚流通業界のAmazonを目指す、八面六臂の挑戦
「ITを使って、日本の魚食文化を活性化する。もっとおいしい魚を食べてほしい」――鮮魚流通ベンチャー、八面六臂(はちめんろっぴ)の松田雅也社長の思いだ。 - 「買ってから選べるEC」――ロコンドが華々しい初年度の大失敗から学んだこと
顔が見える、おもてなしのECとしてスタートしたロコンドだが、初年度は大きくつまずいた。何が悪かったのか? 熟考が足りなかったことに気付いた同社は、商売の本質に立ち戻った。 - 「メイド・イン・ジャパン」の縫製工場が消えてしまう前にできることがある――ファクトリエの挑戦
アパレル品の国産比率は5%以下に落ち込んでいる。海外工場との価格競争、職人の高齢化……。「このままでは日本の高い技術が失われてしまう」と立ち上がった若者がいる。 - メガネのネット通販で業界全部をひっくり返してみせる――Oh My Glasses、清川忠康社長
送料無料、返品無料、購入前に5本のフレームを自宅で試着可能というサービスをひっさげ、オンライン通販専業でメガネ業界に新風を巻き起こしつつある「Oh My Glasses」。創業者の目線の先にあるものとは? - 赤字部門の書籍編集部が生まれ変わった秘密とは?――プレジデント社
平均年齢53歳、雑誌を引退したベテランの“名誉職”だったプレジデント社の書籍部門。一時は廃部も検討されたという弱小編集部が、赤字部門の汚名を返上し、ヒットを連発するようになった秘密とは? 書籍部長の桂木栄一氏に聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.