ITを使った鮮魚流通の革新は「おいしい魚食文化」を取り戻すために――八面六臂:これからの働き方、新時代のリーダー(3/3 ページ)
鮮魚を扱う飲食店に発注アプリ入りのiPadを貸与して、漁師や産地市場とをダイレクトにつなぐ流通ベンチャー、八面六臂。松田社長が狙うのは中抜きによる価格破壊ではない。
転職して、起業して……、そのすべてでフルスイングしてきた
岡田: ところで、松田社長は八面六臂が3社目の起業になるそうですね。もともと起業家として名を成したいというマインドだったのでしょうか?
松田雅也(まつだ まさなり)/1980年、大阪府生まれ。京都大学法学部を卒業後、UFJ銀行に入行。1年半でベンチャーキャピタルに転職する。2010年10月、自身3度目の起業となる「八面六臂」をスタート
松田: いや、社会人生活の最初はUFJ銀行に入行したくらいですから、そういう意図はありませんでしたね。でも1年半くらいで辞めてしまい、バイクに乗って東京に出ました。
できたばかりのベンチャーキャピタルに入ってみたら、いろいろな起業家との触れ合いがありました。「ベンチャー業界って面白いな、いいな」と思っているうちに、このままコンサルティング業を続けるのか、自分で会社を起こすのかで悩み、結果、最初の会社を立ち上げました。
しかし、うまくいかなくて。「稼ぐことが何より大事だ」と代理店業を始めました。営業力はあったほうですから、100万、200万とバンバン売り上げていたのですが、代理店業というのは狩猟民族みたいなもので「むなしさ」もあるんですよね。翌月も500万円売り上がるという保証はまったくない。
そんなとき、とある物流系企業からIT子会社を作るから手伝ってほしいと誘われまして、代理店業を休眠して、立ち上げに参加しました。そこで学んだことは多かった。その会社は急成長したわけですが、同時に「自分の会社ではないな」という思いもありました。ムズムズした感じを抱きながら働いていましたが、ある晩、風呂に入っていたら、ふっと来たんですよ。「変えなあかん、やめよ」っていうのが。それで、休業中の会社を第二創業したのが八面六臂です。
岡田: 紆余曲折(うよきょくせつ)があったのですね。
松田: でも、まったく後悔していませんよ。フルスイングしまくってきた感じです。全部、無形資産といいますか、この経歴を通ってこなければ、八面六臂は生まれませんでした。まず、物流知識がいる、IT知識もいる、金融知識もいる、営業力もいる……。総合格闘技みたいなものですね。
これからのベンチャー企業は、全部、こういうふうになるでしょうね。今のような純ITのベンチャーは短命勝負になっていきます。もう世の中はテクノロジーだけでは変わらない。ITは必須ですが、それだけでやれる事業規模は小さい。すべてを組み合わせて戦っていくことが大事になるでしょう。
岡田: 最後に2つ質問を。まず、アクションリーダーとして心がけていることはありますか?
松田: 現場感は大事ですね。仮に今の事業の顧客が1000件、3000件と増えていったとしても、1人の料理人さん、つまり1店舗の毎月の売り上げの積み重ねでしかないわけです。彼らは「おいしいものを提供したい」という情熱があって働いている。どんなに企業規模が大きくなっても、料理人さんというお客さんと同じ目線で話ができなきゃダメですよね。
岡田: もう1つ。Business Media 誠の読者にメッセージを。
松田: 読者のみなさんは30代〜40代の人が多いそうですね。仕事の経験も増えて、脂の乗った時期だと思います。その知識や経験を、その後の10年、20年につなげられるように働いていますか? 自分自身に「そういう仕事、できてるか?」と問いかけながら働けていますか? と伝えたい。人生の残り日数は1日1日と減っていくわけです。当然のように明日が来るとは限りませんからね。
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