地方鉄道とパークアンドライド──観光鉄道を生かせない「アプローチ路線」の機会損失:杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)
鉄道とクルマはライバルではない。むしろパートナーだ。地方鉄道では二つの意味で「パークアンドライド」の導入が進んでいる。一つは通勤、もう一つは観光客の誘致だ。実は後者には「中抜け」されるアプローチ線の機会損失がある。
地方鉄道と2種類の「パークアンドライド」
モータリゼーションと鉄道の関係は、都市部と地方で異なる。都市部では交通渋滞によって路面電車が排除され、その一方で定時性に優れた地下鉄や普通鉄道の役割が大きくなった。しかし、地方では公共交通が衰退する原因となった。ドアツードアで移動できるクルマがあれば、運行本数の少ないバスや、家から離れた駅へ行く面倒から解放される。人も荷物も、鉄道からクルマに乗り換えていった。
地方鉄道にとってクルマは脅威だ。しかし、必ずしも敵ではない。マイカーと上手に付き合おうとする地方鉄道は多い。
鉄道とマイカーの良好な関係の一つに「パークアンドライド」がある。駅周辺に鉄道利用者向けの駐車場を用意する方式だ。自宅から最寄り駅までクルマで、駅から都市へは列車で向かう。自宅付近はクルマが便利だけど、地方都市では渋滞もあるし、駐車場料金もかさむ。目的地が都市であれば、公共交通のほうが便利だから目的地までクルマで行く必要はない、というわけだ。
そして、地方鉄道の「パークアンドライド」にはもう一つ別の視点もある。冒頭に挙げた、観光利用者のための駐車場整備。いわば「観光型パークアンドライド」だ。鉄道を乗り継ぐお客さんだけではなく、マイカーのお客さんにも乗りに来てもらいたい。その営業努力の一つとして駐車場整備に取り組んでいる。
観光型パークアンドライドの効果は、2009年から2011年頃にかけて実施された高速道路の無料化や、上限を1000円とするなどの大幅割引で実証された。JR各社や大手私鉄など、都市間を結ぶ鉄道会社の業績が停滞する一方で、観光鉄道の中にはマイカー利用者の集客で増収になる事例もあったという。
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