8億人が利用するサービスはここから生まれた 中国ネット最大手・Tencentの素顔:現代中国インターネットの覇者たち(2/2 ページ)
16年前、創業すぐにTencentが提供を始めたメッセージングツール「QQ」は、今や8億を超えるアカウント数に。“中国版LINE”といわれる「WeChat」も好調だ。深センにある本社への取材を通じ、同社の素顔に迫った。
深センの発展とともに成長
Tencentは1998年11月に創業。創業者であり現在もCEOを務める馬化騰(Pony Ma)氏は、1971年生まれの広東省汕頭市出身である。1993年に深セン大学コンピュータサイエンス学部を卒業し、China Motion Telecomでインターネットのページングシステム開発に従事した後、Tencentを設立した。
創業間もない1999年2月にQQをリリースし、その後の事業の基盤を築き上げると、2004年6月に香港証券取引所に上場した。2012年にはKDDIと協業し、QQチャットアプリのローカライズ版をauのスマートフォン向けに提供した。
創業以来、Tencentが本社を構えるのが深センだ。香港の北部に位置する深センは、かつて中国の指導者・トウ小平氏が推進した改革開放政策によって、1980年に経済特区として指定されると、今日に至るまで急速な発展を遂げていく。1980年にはわずか33万人だった人口が、2012年末には1054万人に達したほか、2008年には一人当たりのGDPで中国の都市として初めて1万ドル台を超えた。この30数年間で巨大都市へと変貌した深センに歩調を合わせるかのように、Tencentも成長してきたといって過言ではない。
なお、IT産業の優遇政策に積極的な深センには、Tencentのほか、通信機器メーカー大手のHUAWEI(華為技術)などの本社がある。
エリート学生でも入社は困難
現在、Tencentの本社には4000人以上の社員が働く。周辺のオフィスビルに入居する社員をすべて合わせると約2万人に上るという。社員寮などからオフィスまでは通勤用のシャトルバスが運行しており、早朝にはバスが連なっている光景を目にすることができる。地上39階、地下3階から成る自社保有の本社ビルは、2009年8月に完成。しかしながら、早くも既に手狭になりつつあり、2016年に開業予定の新たなオフィスビルを近隣に建設中だ。
本社ビルのエントランスをくぐると、内部は3階までが吹き抜けとなっており、開放的な空間が広がっている。1階にある受付カウンターの前に設置されている大型スクリーンには、QQの同時オンライン数とユーザーの位置がリアルタイムで表示されている。
執務エリアは、欧米企業のようにひとりひとりの区分けされたスペースがあり、社員は広々と働いている。ユニークなのは、ほとんどの社員が簡易ベッドと寝袋を小脇に置いていることだ。中国の南方の企業は昼休みが2時間もあることが多く、これはTencentも同様。ランチの後に頭と身体をリフレッシュしたい社員は、ベッドにもぐり込み、昼寝をするそうである。
また、各フロアには、リラックススペースを設置。ドリンクや軽食のほか、筋肉トレーニング器具、さらにはテーブル・フットボールやビリヤードなどもある。
社員食堂は3フロアに分かれ、それぞれのフロアで提供される食事メニューはすべて異なる。社員はモバイル端末や社員カードにチャージした電子マネーで支払う。この決済システムはもちろん同社のモバイル決済サービスである財付通だ。食堂は夜間も営業しており、残業の多い社員に対しては食事手当として月に数回、無料で提供される。
前々回の記事で紹介した百度と同様、Tencentの本社も若い社員で溢れている。平均年齢は27〜28歳で、男女比は5:5。半数の社員がエンジニア職だという。毎年500〜1000人が新卒入社するが、中国トップレベルの北京大学や清華大学の学生でも入社できるのは一握りと、とにかく競争倍率が高い。
その理由として、一般的な国内企業と比べて給料の高さもさることながら、これだけの巨大なユーザーを抱えるサービス事業にかかわれるという点に多くの学生が魅力に感じ、同社の門をたたくのだという。
次回は、経営幹部の一人、ソーシャルネットワークグループ統括責任者の湯道生(Dowson Tong)氏に対するインタビューを基に、Tencentがサービス開発において核とする哲学や、これほどまでにユーザーに支持される秘けつを明らかにしていく。
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