日本も他人事ではない――中東でテロリスト“育成”国家が生まれる可能性:伊吹太歩の時事日想(1/3 ページ)
イラク北部を中心とする紛争は、戦火を拡大しつつ、さまざまな国を巻き込んで、世界情勢に影響を与えている。紛争に関わる国々の利害関係と、日本にとっても他人事ではない理由を解説しよう。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
今、イラクとシリアで、非常に憂慮すべき事態が発生している。
イラクやシリアという国名を聞いても、ピンと来ない人も多いかもしれない。「なんかよく分からないが、テロ組織がまた何かやらかしたのか」というくらいの印象しか受けない人が多いのではないか。
だが、現在イラク周辺で起きている紛争は“大変な状況”という言葉では足りないほど深刻だ。中東地域を中心にさまざまな国を巻き込んで、世界情勢に影響を与えている。これは日本にとっても決して他人事ではない。
日本の新聞やニュースを追っていても、実際に何が起きているのか、なかなか理解しづらいかもしれない。中東国家やイスラム教の宗派などが入り混じることで、根本的な“勢力図”が見えにくいからだ。今回はなるべく分かりやすく、事態の深刻さを解説していく。
武装過激派組織がイラクとシリアを脅かす
まず今、一体何が起きているのか。イスラム教スンニ派の「イラク・シリアのイスラム国(Islamic State of Iraq and Syria、略称ISIS)」という過激派が、イラク第2の都市モスルをはじめとするイラク北西部と、国境をまたいだシリア東部を掌握した。治安を守るはずのイラク軍などは武器を捨てて逃げ去り、ISISは中部にあるイラクの首都バグダッドに向けて南下している。
ただこれまでも、シリアやイラクではISISなどスンニ派の過激派が活動を続けてきた。なぜISISはこのタイミングで一気に勢力を拡大したのか。その理由で有力なのは、スンニ派を弾圧するシリアのアサド政権やイラクのマリキ政権と戦うために、両国の武装したスンニ派部族たちが、この地域で国境をまたいで活動するISISに協力を始めたことがある。ISISはシリア内戦により勢力を拡大し、戦略や戦闘力もかなり高まっていたと指摘されている。
ISISは銀行なども手中に収めて4億ドル以上の現金を手にし、逃げ去ったイラク軍の貯蔵庫からは米軍がイラク軍に供給した大量の武器なども獲得している。この地域は石油が豊富で、武装勢力の支配が長期化すれば、好き勝手に石油を輸出することもできなくはない。そんなことから、本当にISISの国家が誕生してしまうのではないかと、ささやかれている。
ISISはイスラム教スンニ派の過激派組織だ。対するイラク政府は、シーア派の政治家などが中心。政府機関などはシーア派が要職を固めている。隣国でシーア派国家のイランから後ろ盾を得ながら、国内のスンニ派の人々をのけ者にしてきた。
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