日本も他人事ではない――中東でテロリスト“育成”国家が生まれる可能性:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
イラク北部を中心とする紛争は、戦火を拡大しつつ、さまざまな国を巻き込んで、世界情勢に影響を与えている。紛争に関わる国々の利害関係と、日本にとっても他人事ではない理由を解説しよう。
イラクとシリアだけの問題ではない
これだけだと、この騒動はイラン国内としばらく内戦が続いているシリアの問題、という話になる。だが今回は、それでは済まない様相を呈している。さまざまなプレイヤーの利害が絡んでいるからだ。主要なプレイヤーとそれぞれの事情を見ていこう。
シリア
3年以上にわたり、シーア派の分派、アラウィー派であるバシャル・アサド大統領の政府と、スンニ派を中心とした反政府派が戦闘(内戦)を繰り広げている。ISISも反体制派に加わって政府軍と戦っていたが、最近では、反体制派の「仲間」にまで攻撃を仕掛けるようになった。
専門家の中には、反体制派を分断したいアサド側から支援を受けてISISが「寝返った」との話も出ている。そして市民なども容赦なく殺害しながら、東部からイラクにかけて支配を広げている。
イラン
イランは中東地域で影響力を高めたいシーア派の盟主だ。イラク政府、シリアのアサド政権、そしてレバノンの強力なシーア派武装勢力ヒズボラと手を組んでいる。今回ISISがイラク政府を脅かしていることで、イランは、国内の治安や経済に深く関わる軍隊のイラン革命防衛隊の精鋭特殊部隊「クッズ」を、イラクとISISとの戦いに送り出したとみられている。
米国
国外の紛争にむやみに介入しない方針をとるオバマ政権は難しい立場に置かれている。オバマ政権は“ブッシュ前大統領のやらかした戦争”とも言われるイラク戦争から米軍を撤退させる際に、米軍をある程度残して無能なイラク軍の治安維持をサポートする提案をしていた。さもないと、スンニ派の過激派勢力が好き放題に暴れ、テロリストの巣窟になる可能性があるからだ(現在、まさにその方向に向かっている)。だが、イラクのヌーリ・アル・マリキ首相はその提案をのらりくらりとかわし、結果的に米国を“排除”した。
それでもイラク再建監査報告によれば、米国は完全撤退までにイラク軍の訓練・支援として200億ドル以上を費やしてきた。だがモスルなどでイラク兵はISISの攻勢に恐れをなして、制服をその場に脱ぎ捨て、一目散に敵前逃亡してしまった。こうなると、200億ドルは無駄だったと言わざるを得ない。
マリキ政権は今、米国に無人戦闘機による攻撃を要請するなどの支援・介入を求めている(マリキはこれまでも無人機などの提供を強く求めていたが、米政府は“のらりくらり”とかわしてきた)。ただ、過激派組織の支配拡大は米国も懸念しており、核開発問題などの天敵であるイランとともにISISと戦う、または協力するハメになるかもしれない。
オバマ大統領は「部隊は“送らない”が、空爆を含めた支援はするかもしれない」とあいまいな態度を続けており、シリア同様、イラク国内も泥沼化する可能性がある。
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