日本も他人事ではない――中東でテロリスト“育成”国家が生まれる可能性:伊吹太歩の時事日想(3/3 ページ)
イラク北部を中心とする紛争は、戦火を拡大しつつ、さまざまな国を巻き込んで、世界情勢に影響を与えている。紛争に関わる国々の利害関係と、日本にとっても他人事ではない理由を解説しよう。
サウジアラビア
シーア派の盟主であるイランに対し、サウジアラビアはスンニ派の盟主を自負している。最近は歩み寄る姿勢もやや見られたが、基本的にサウジアラビアはイランの影響力拡大を懸念し、敵対している。
イラン寄り(シーア派)のイラク政権はこれまで、サウジアラビア(とカタール)がISISを支援していると非難してきた。実際にサウジ政府は、シリアの反体制派(スンニ派)を支援して、イランに対する代理戦争を繰り広げていた。そんな背景から、サウジアラビアにはISISの関連組織があったが、2014年3月にサウジ政府はISISの関連組織を解体したと発表している。
国際テロ組織アルカイダ
もともとISISはアルカイダ系の組織だったが、民間人の殺害など、シリア内戦でのISISの傍若無人ぶりを見て、アルカイダは2014年3月に「ISISはアルカイダ系ではないし、組織的な関係性もない」と声明を発表している。ただ、モスルを手中に収めた今となっては、ISISはアルカイダをはるかにしのぐ戦闘力と資金力を獲得したのが現状だ。
といった具合で、さまざまな思惑が入り乱れており、今後直接的な利害の生じる国が増える可能性もある。
テロリストや石油高騰、世界に及ぼす影響とは
ISISがイラク地域で支配を広げれば、欧米を狙うテロリストの巣窟にもなるだろう。最近では、ISISに限らず、シリアでアサド政権と戦う反体制派などに加わる欧米人が増えている。そうした欧米人の多くは移民を中心としたイスラム系の若者だが、彼らは自国で「イスラム教徒として不当な扱いを受けている」と不満を持つ者が多い。しかもこうした移民たちは最近の不景気の影響をまともに受け、不満が憤りに変わるケースも少なくないのだ。
そんなことから、彼らはインターネット上のコミュニティや過激派組織のビデオを見るようになっている。さらには最近、欧米諸国に入り込んで活発に活動するようになったスカウトなどを通じ、スンニ派の過激思想に傾倒して、イスラム教徒の国家樹立を目指すISISなどの戦闘に参加するのだ。
勢力を強めたISISは今、自分のパスポートで難なく帰国できるこうした欧米人に、欧米諸国でテロを実行させると息巻いている。戦闘で訓練された人たちが欧米の母国に戻り、テロを引き起こす事件も実際に起きた。5月にはベルギーの首都ブリュッセルでユダヤ博物館が銃撃されて3人が死亡したが、逮捕されたのはISISとともにシリアで戦った経験があるフランス人だった。
イラク混乱で影響を受けるのは欧州だけではない。イラクがこれまで以上に不安定になったことで、世界の石油価格はすでに高騰している。イラクの石油は、世界の石油需要を賄うのに大きく貢献しているだけに、混乱がさらに続けば、石油供給や価格の面で、日本にも多大な影響を及ぼしかねない。
ここ数年を見ても、エジプト、シリア、ウクライナ、そしてイラクなどが周辺国を巻き込む混乱に陥っている。それは、米国が世界の混乱に積極的に関与しなくなったことも無関係ではない。世界各地で今後さらに混乱が勃発する可能性がある。世界の平和を保つには、やはり米国のような“強い”国が介入して、地域の均衡を保つ必要があるのかもしれない。
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