世界遺産の富岡製糸場には、鉄道で、しかも「上信電鉄」で行くべきだ:杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)
「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界遺産登録が決まった。ただ、いくつか課題はある。ぜひ鉄道で、しかも「上信電鉄」でと勧めたい理由は何か。鉄道とバスを連携させた周遊ルートの整備を急ぐべき理由も考察した。
公共交通機関に乏しい世界遺産
JR東日本が「富岡製糸場と絹産業遺産群」に力を入れる理由は、単なる観光地ではなく「鉄道の利用が最適な観光地」だからである。登録文化遺産の中心となる「富岡製糸場」には駐車場がない。周辺の有料公共駐車場からは徒歩で10分かかるし、その駐車容量は地図サイトの衛星写真で見た限り、20〜30台程度。アクセスする道路も狭い。
上信電鉄の上州富岡駅付近には無料駐車場があって、こちらは広い。ただし富岡製糸場からは徒歩15分。この駐車場は本来、上信電鉄のパークアンドライド(関連解説記事参照)用に設置されたと推察する。ここが観光利用者でいっぱいになると、本来の上信電鉄利用者に不便を強いるだろう。
富岡製糸場の公式サイトを拝見すると、アクセス手段として上記の駐車場があり、鉄道利用者向けの案内は下にある。群馬県は自家用車保有率が高く、生活はクルマ利用が前提という土地柄でもある。だからクルマ向けの案内が先にある。これは納得できる。ただし、多数のクルマが集まるとどうなるか。道が狭いところに駐車場待ちの行列ができるだろう。現在はトップページに「首都圏からはJRと上信電鉄利用が便利です」とリンクが張られている。観光客が急増し、すでにクルマの許容量を超えたようだ。
つまり、富岡製糸場は公共交通機関、特に上信電鉄の上州富岡駅からのアクセスが最適だ。上信電鉄は高崎駅を起点とし、上州富岡までは約40分かかる。上州富岡駅から徒歩20分は、真夏には厳しい徒歩時間かもしれない。しかし、文化遺産は小さな子どもを連れていっても理解しにくいから、行かないかもしれない。たいていの訪問者はこの徒歩には耐えられそうだ。高齢者などはタクシーを利用されたい。願わくは上州富岡駅から富岡製糸場までシャトルバスの運行が望ましい。
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