世界遺産の富岡製糸場には、鉄道で、しかも「上信電鉄」で行くべきだ:杉山淳一の時事日想(4/4 ページ)
「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界遺産登録が決まった。ただ、いくつか課題はある。ぜひ鉄道で、しかも「上信電鉄」でと勧めたい理由は何か。鉄道とバスを連携させた周遊ルートの整備を急ぐべき理由も考察した。
周遊交通機関を整備せよ
JR東日本も上信電鉄も、こうした状況を理解している。ビジネスチャンスである。しかし、残念ながらこのままでは鉄道利用者は伸び悩み、富岡製糸場の周辺はクルマであふれ、周辺住民の生活道路は通行しづらくなる。なぜか。世界遺産は富岡製糸場だけではなく「絹産業遺産群」を含むからだ。
世界遺産は状態の保存を促すだけではない。言うまでもなく観光産業の切り札である。世界遺産めぐりを趣味とする人々は世界中にいる。彼らはどんな行動を取るだろうか。「リストアップされた場所はすべて回っておきたい」と考える。
では、「絹産業遺産群」となった場所はどうか。「田島弥平旧宅」は東部伊勢崎線境町駅からシャトルバスで25分。ただし運行は土日祝日のみ。「高山社跡」は八高線群馬藤岡駅または高崎線新町駅からバスで35分。「荒船風穴」は上信電鉄下仁田駅からバスに乗り、途中で乗り換えて無料送迎車で15分。それぞれの場所だけ行くなら不便ではなさそうだ。しかし、周遊するとなれば、やっぱりクルマで最短距離を移動したほうが便利だ。
JR東日本は先に挙げたプレスリリースの中で「ぐんまワンデー世界遺産パス」の販売を告知している。2014年7月1日から12月31日まで、群馬県内のJR線と東武鉄道線、上信電鉄線全線、上毛電気鉄道線全線、群馬県内のわたらせ渓谷鐵道の普通列車の普通車自由席が乗り放題となる。価格は大人2100円(子ども1050円)。このきっぷは使い勝手がよさそうに見えるが、実はバスをサポートしていない。このきっぷだけで行けるところは、遺産リストの中では富岡製糸場だけだ。
そもそもぐんまワンデー世界遺産パスとは、以前に発売されていた「ぐんまワンデーパスSP」の名前を変えただけのきっぷである。世界遺産とは関係ない地域の区間も含まれている。世界遺産の文字を入れるなら、対象区間を絞り、バス路線やレンタカー割り引きなどを付帯させるべきではないか。
そして遺産リストに乗った地区を抱えた自治体は、連携して公共交通機関利用者の便宜をはかってほしい。先に挙げたように、上州富岡駅と富岡製糸場駅間のシャトルバスは必要だ。下仁田駅と荒船風穴もノンストップで行きたい。土休日限定のバスは、本数を半減してもいいから平日に運行していただきたい。
東西方向に散らばる拠点を周遊する手段も必要だろう。上州富岡駅または高崎駅を拠点とし、各地区を結ぶか、それぞれに直行するバス便、あるいは乗り合いタクシーを運行したらいいと思う。周遊モデルコースの提案もほしいところだ。
公共交通の点でもっともマシな場所は富岡製糸場だけだ。このままでは、世界遺産を訪れた観光客は、富岡製糸場の訪問だけで帰ってしまう。あるいは各地ともマイカーであふれかえる。これでは他にも魅力的な場所がたくさんありながら生かせない。実にもったいない状況である。
私などが言うまでもなく、これらの施策は検討されているだろうけれど、急いでほしい。
【みなさん、見よう!】7月2日(水)19時〜 杉山淳一氏テレビ番組出演情報
- 番組:『特急で行こう!〜この夏、絶対乗っておきたい列車ベスト20〜』
- オンエア:2014年7月2日(水)19時〜20時54分
- 放送局:TBS
- 番組内容:乗るだけで楽しい!日本全国の超人気列車ベスト20徹底紹介!▽鈴木砂羽&中川家礼二が乗車!千円でセレブ気分!豪華観光特急「しまかぜ」▽安住紳一郎アナ乗車!富士山を独り占め「フジサン特急」▽鈴木奈々&大林素子が乗車!ご当地イベント次々開催!「リゾートしらかみ」▽最新お座敷新幹線&絶品!お刺身列車&女性に大人気の寝台特急&乗れる機関車トーマス登場&フルコース食堂列車&2人で140万の超豪華寝台列車!
- 出演者:MC 今田耕司/田中みな実・佐藤渚(TBSアナウンサー)、スタジオ出演者 渡辺えり・友近・鈴木奈々/中川家礼二・徳永ゆうき・吉川正洋・南田裕介・田中いちえ・恵知仁・杉山淳一・脇田浩之・矢嶋敏朗、ロケ出演者 鈴木砂羽・中川家礼二・蛭子能収・大林素子・鈴木奈々・安住紳一郎アナウンサー・南田裕介
杉山氏は専門家ゲスト(鉄道ライター)としてスタジオ出演します。
「ひな壇番組って出演者が楽しそうだと思ってましたけど、出演してみたらその通り楽しかったです」(杉山氏)
オススメ書籍情報
誠Styleの連載「杉山淳一の +R Style」が単行本になりました! 『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』(幻冬舎)。誠 Styleに掲載した全60本の記事の中から、33本を厳選。大幅に加筆・修正を加えて再構成したものです。
日々の生活に+Railwayするだけで、毎日がぐっと楽しくなる――そんな連載のコンセプトが丸ごと楽しめる1冊です。Webで連載を読んだ人も、これから読む人もぜひ本書を手に取ってみてください。
関連記事
- 杉山淳一の時事日想:バックナンバー
- 富士山行きの鉄道は実現するのか――過去の歴史は「観光VS. 自然」でせめぎあい
世界文化遺産登録が確定的となった富士山で、登山鉄道の動きがある。富士登山鉄道の構想は1910年から始まり、現在まで何度か立ち上がっては消えた。そこには自然保護運動との対立の歴史がある。 - 外国人に紹介したい「日本の世界遺産」はどこ?
世界遺産に興味がある人はどのくらいいるのだろうか。ここ1年間に旅行をした人に聞いたところ「興味がある」と答えたのは87.2%だった。ネオマーケティング調べ。 - 世界遺産「和食」とビジネスの危険な関係
ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」をめぐり、文化庁は、無形文化遺産をアピールした上での和食の商業化をいっさい認めない方針を決めた。過度な商業化が続けば最悪の場合、登録取り消しもあり得ると同庁が判断したためだ。 - 杉山淳一の+R Style:第36鉄 夏だ! アニメがいっぱい西武鉄道沿線散歩
『銀河鉄道999』『機動戦士ガンダム』『ゲゲゲの鬼太郎』『めぞん一刻』『ハートキャッチプリキュア!』――今回は西武鉄道に乗って、名作アニメにまつわる場所をめぐる旅。夏らしく、かき氷とアメリカンなハンバーガーも食べてきました。 - 杉山淳一の+R Style:第40鉄 夏の青春18きっぷ旅(4)日本一のモグラ駅をズルい方法で訪ねた
記録的な猛暑の夏、涼を求めて彷徨う青春18きっぷの旅。4回目は地下70メートルの上越線土合駅と、そこから徒歩で行ける谷川ロープウェイを訪ねた。太陽の光が届かない「トンネルの中の駅」なら、きっとひんやりしているはず……。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.