なぜ、いま「羽田空港関連の鉄道建設」が盛り上がっているのか:杉山淳一の時事日想(3/4 ページ)
羽田空港への鉄道整備計画が活発だ。JR東日本は貨物線を使う都心アクセス路線を計画。政府は都営浅草線の新線を構想し、東急蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶ路線計画もある。しかし、どれも東京オリンピックに間に合いそうにない。そこで杉山氏が提案するのは……。
新路線はどれもオリンピックの需要増に間に合わない
JR東日本が構想する、貨物線を再利用した新路線(以下「羽田アクセス線」と呼ぶ)は、田町駅から大井埠頭へ向かう、休止中の貨物線を旅客化するものだ。大井埠頭には東京貨物ターミナル駅があり、そこから貨物線が羽田空港島の地下を通って川崎臨海部に通じている。その貨物線から分岐して新線を建設し、羽田空港ターミナルビルに新駅を作る計画だ。貨物線の旅客化計画は以前から地元自治体などから要望があり、2003年に運輸政策審議会が「要検討」と答えていた。
この計画は、JR東日本が東京モノレールを子会社化した段階で停止したと思われた。JR東日本が新たな羽田アクセス線を建設すると、子会社となった東京モノレールの経営に打撃を与えかねないと懸念されたからだ。
しかし、2013年11月に計画は再起動する。理由の1つは東京オリンピック、もう1つは上野東京ラインだ。羽田アクセス線と上野東京ラインが接続すると、東京駅や北関東から羽田空港へ直行できる。東京モノレールは都心からのアクセスが主で、羽田アクセス線は中長距離も視野に入れる。競合は少ないという判断もあるだろう。
2014年7月15日。JR東日本の羽田アクセス線について進ちょくが報じられた。まず日本経済新聞が「JR東日本が総工費を約3000億円と見積もり、国と地元自治体とJR東日本が1/3ずつを負担する」と報じた(参照リンク)。
りんかい線新木場方面との直通は東京テレポートから新しいトンネルを作って貨物線に接続、大井町方面からも新たなトンネルを掘って貨物線に接続する。田町駅付近も地下トンネルとして東海道本線と接続するというが、羽田空港トンネル工事などに時間がかかるため、設計と工事に約10年かかるそうだ。
ただし、朝日新聞によるとりんかい線新木場方面へは、既存のりんかい線車庫の出入りに使う線路を使うという(参照リンク)。日経の記事が最良の計画で、朝日の記事は当初の構想通り。コストと工期に応じて2案あるといったところか。朝日新聞によると、国土交通省は「まだ検討していない」、東京都は「概要説明を受けただけ」という状況だ。まだ計画は確定的ではないものの、JR東日本としては「予算と工期の見積もりができた」という段階に進んでいるらしい。
JR東日本の羽田アクセス線の計画進展は、前述のような羽田空港の発着回数増加を見込んだはずだ。羽田へのアクセスルートがいくつもできて、利用客の争奪戦にならないかという心配もあるが、利用客そのものが増えるので、適度な競争を維持していくという好ましい状態になるだろう。
しかし、いずれにしても完成時期は2025年前後だ。2020年のオリンピックに間に合わない。
関連記事
- 「上野東京ライン」成功のカギは、品川駅が握っている
JR東日本は上野駅と東京駅を結ぶ4つ目の路線を「上野東京ライン」として2015年3月に開業する。従来上野駅止まりだった東北本線(宇都宮線)、高崎線、常磐線の列車が東海道本線と直通する。ただし、この計画で重要な駅は上野駅や東京駅ではなく、品川駅だ。 - オリンピックが開催されても、鉄道網が整備されない理由
2020年東京オリンピックの開催決定で、交通インフラの整備が活気づく。しかしJR東海はリニア中央新幹線の前倒し開業を否定、猪瀬都知事も鉄道整備に消極的だ。オリンピックは鉄道整備の理由にならない。それは1964年の東京オリンピックの教訓があるからだ。 - それでも「鉄道が必要」──三陸鉄道に見る「三陸縦貫鉄道復活」への道と将来
東日本大震災から3年を経て、三陸鉄道が全線復旧した。鉄道以外にいくつかの手段が模索される中、今回それぞれの交通システムを体験して分かった。それでも「鉄道が必要だ」と。 - 被災路線をあえて手放す、JR東日本の英断
JR東日本は山田線被災運休区間の地元自治体への譲渡を提案した。地元は鉄道を望み、JR東日本はBRTを固持してきた中、これがJR東日本からの最後の提案となるだろう。地元は素直に受け入れられないようだが、これがベストプランだと思われる。 - 杉山淳一の時事日想:バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.