医療費が高くなる? 「混合診療」拡大問題、なぜ賛否が分かれたのか:INSIGHT NOW!(3/4 ページ)
安倍政権が掲げる医療の規制緩和策。特に混合診療の対象拡大については、当初医師会が反対をするなど賛否が分かれた。混合診療の何が問題になっており、実現すると何が起こるのかを解説しよう。
医師会が規制緩和に反対した理由
では、なぜ医師会はそれほど規制緩和に反対したのか。周知のことかもしれないが、日本医師会は主に開業医の意見を代表している。つまり、開業医としては、混合診療の導入によって不都合な事態が生じると感じているのだ。これは個人のジャーナリストや医師の方々が自身のブログで解説している内容が参考になる。
それらによると、混合診療で高度医療が認められると今よりずっと多くの患者が保険外の高度医療を求め、総合病院ではそれにチャレンジするところが出てくる、すると、最先端の高度医療に取り組む気のない年取った開業医は患者を奪われる、ということを懸念していると分かってきます。つまり「競争原理を導入されてはかなわん」という素朴な反発だ。
とはいえ、保険適用でも保険外でも高度医療が必要な事態になれば、大半の開業医の手には負えないので、これは杞憂と言える。しかし、実際に多くの開業医が懸念しているのはこちらの理由のようだ。
もう1つは「混合診療を全面解禁すれば、将来的には保険診療の範囲が縮小される」という予測への懸念である。事実、混合診療で高度医療を認めるようになれば、民間保険で自由診療(保険外診療)分をカバーするように人々は動くだろうという想定がされており、保険会社はその準備を始めている。彼らにとっては大きなビジネスチャンスなのだ(そのため、混合診療賛成派のサポート役には保険会社が陣取っている)。
そして、実際に混合診療が解禁されたらどうなるか。直近では、今まで公的健康保険が適用される診療だけで我慢していた人たちの何割かは、民間保険を使って混合診療を受けるようになるだろう。例えば検査は公的保険を適用し、その後の診療は民間保険でカバーされる高度医療を受ける、という具合だ。すると、公的健康保険の適用部分は相当程度減ることになる。
これが健康保険組合と政府にとって、混合診療を導入したい最も強力な理由だ。混合診療解禁派の人々も「混合診療を解禁すれば、保険診療を縮小できて、公的保険財政が健全化する」と明言している。しかし、これは公的健康保険に依存し、高度医療と関係のない開業医からすると、自分たちの取り分が減ることにつながる。そのため、医師会は混合診療の解禁に反対したのだ。
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