医療費が高くなる? 「混合診療」拡大問題、なぜ賛否が分かれたのか:INSIGHT NOW!(2/4 ページ)
安倍政権が掲げる医療の規制緩和策。特に混合診療の対象拡大については、当初医師会が反対をするなど賛否が分かれた。混合診療の何が問題になっており、実現すると何が起こるのかを解説しよう。
混合診療にデメリットはあるのか?
規制緩和の是非は一旦置いておいて、そもそもなぜ今まで“混合診療”が禁止され、そして医師会などが反対していたのだろうか。日本医師会のWebページには、反対理由が次のように記されているが(参照リンク)、その論理には若干の破たんがみられる。
一見、便利にみえますが、混合診療には、いくつかの重大な問題が隠されています。例えば、次のようなことです。
(1)政府は、財政難を理由に、保険の給付範囲を見直そうとしています。混合診療を認めることによって、現在健康保険でみている療養までも、「保険外」とする可能性があります。
(2)混合診療が導入された場合、保険外の診療の費用は患者さんの負担となり、お金のある人とない人の間で、不公平が生じます。
(3)医療は、患者さんの健康や命という、もっとも大切な財産を扱うものです。お金の有無で区別すべきものではありません。「保険外」としてとり扱われる診療の内容によっては、お金のあるなしで必要な医療が受けられなくなることになりかねません。
(1)の論理はシンプルだ。安倍政権がこの問題を提起する背景に財政的理由があることを示唆し、その上で「財政難に苦しんで保険の給付範囲を見直したい政府は、今は保険適用になっている療養までも『保険外』とするかもしれない」と懸念をあおっている。
問題は(2)である。混合診療が導入されていない現在も「保険外診療の費用は患者の負担」であって、お金のある人とない人の間で、不公平が生じるのは変わりない。むしろ、混合診療が禁止されている現在の制度下のほうが、自己負担額が高くなり、多くの人が最先端の高度治療を諦めざるを得ないのが実態だろう。これは規制緩和によって新たに生じる問題ではない。
(3)もまた論理が怪しい。「医療は〜お金の有無で区別すべきものではありません」という部分は、もっともらしい言い回しだ。しかし「『保険外』としてとり扱われる診療の内容によっては、お金のあるなしで必要な医療が受けられなくなることになりかねません」と結論付けた一文は、実は深い示唆を持っている。(1)の懸念がもし現実化すれば「お金がないと必要な療養でさえ受けられなくなる」という事態が生じるぞ、と脅しているわけだ。
そう解釈すれば(3)自体は正しい理屈といって差し支えなく、むしろ(1)からすぐに(3)を説明してもロジックはシンプルである。しかしそれでは単に「政府は財政が厳しいから、必要な療養も保険外にしたがっている。するとそのうち金持ち以外は必要な療養を受けられなくなる」という懸念の表明にしか過ぎず、混合診療への反対につながりにくいと医師会は考えたのだろう。
何としても混合診療には反対したい、しかしその背景である医療費高騰の一端は自分たちにある、自分たちには非難の矛先が向かないように、庶民の味方だと見せたい、といった心理が働いたのかもしれない。多少強引であっても「混合診療導入=金持ち優遇」という(2)の要素を入れたかったようだ。
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