なぜ甘い? 映画やドラマの鉄道考証──蒸気機関車C62形「129号機」のナゾ:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
映画やドラマの「鉄道考証」は、なぜズサンなのだろうか。制作側にも諸事情ありそうだし、駅や列車の場面は重要ではないかもしれないが、鉄道ファンには気になる。でも見方を変えると、そのズサンなところに資料的な価値が見つかったりもする。やっぱり映画は面白い。
鉄道考証の甘さを逆手に取った「制作者の遊び」
なぜ「C62 12x」がおかしいか。前述したように、C62形は48号機まで。120番台など存在しないからである。
『大いなる驀進』も国鉄協力ながら鉄道考証はいいかげんで、同じ列車だけどEF58形電気機関車の番号はコロコロ変わるし、「さくら」の走行場面のヘッドマークが「あさかぜ」になっていたりする。だからC62形の製造番号にこだわりはなかったはずだ。しかし、実際にはないナンバープレート「C62 12x」を、わざわざ取り付けている。ここには何か意図がありそうだ。
調べてみたら、C62形蒸気機関車は当時、狭軌(日本の在来線の線路規格)の世界最高速度記録を達成していた。その速度は時速129キロメートル。だとすると「C62 12x」は「C62 129」だ。国鉄協力の映画である。制作関係者の誰かが、C62形蒸気機関車の栄光を映画に残すために、わざわざ「C62 129」のプレートを作って掛け替えたと思われる。「どうせ機関車のナンバーなんて誰も注目していない。ならば遊んでしまおう」と思ったかもしれない。鉄道考証の甘さを逆手に取ったメッセージだったようだ。
鉄道考証が甘かったおかげで、映画に別の価値が生まれた。前述のEF58形電気機関車のナンバーもふぞろいだったおかげで、この時代にはEF58形がたくさん稼働していたと分かる。C62形もトップナンバー(1号機)の現役時代の映像がある。そう考えると、『喜劇 急行列車』の旧型客車の場面は貴重な資料映像だ。『鉄道公安官』も、同じ列車が何度も出てくるより、違う列車が映ったほうが資料数が多いと言える。こういう混乱に乗じて、ならばナンバープレートで遊んでしまおう、というアイデアも生まれる。どれも面白い。
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