女の子の学力をぐーんと伸ばしてきた、長野雅弘さんをインタビュー:働くこと、生きること(2/7 ページ)
「自分が行きたい学校に行ける」「自分がなりたい職業に就ける」――。さまざまな不安から伸び悩む生徒たちを、次々に有名大学に導いた教育者は、何を考え、何を行ってきたのだろうか。
奇跡は教室で起こっている
ところが最初の段階から、女子教育のあり方に疑問を感じたという。
「最初に勤めた県立商業高校はレベルが高く、名古屋大学に進学できるくらいの子がゴロゴロしてたんです。でも、当時はまだ女の子の進学についての世間的な理解が低かった。生徒もその親も、卒業したら就職するものだと決めつけていたんです。成績がいいんだから大学に進んだ方がいいと助言しても、『ウチの子は嫁に行かせるんだから、大学なんか必要ない』とか、『ウチは農家だから継がせるんだ』とか、必ず親に言われましたしね。『なぜそうやって、自分の人生を決めつけちゃうんだろう。もったいないなあ』と思っていたので説得し続け、妥協案として短大か私立の文系に落ち着かせたりしていたんですが、そういう考え方がとにかく不思議でした」
その後は、お世話になった方から薦められ、3年間の約束で私立の女子高等学校へ。在校生数千人のマンモス女子校だが、折りしも校内暴力が問題化していた時代。トラブルが頻発し、苦労も多かった。
「毎日崖っぷちの綱渡りで、どうしたらいいのか分からないことの連続でした。特に普通科がひどくて、商業科からいつも文句を言われていました。辞めようと思ったことは何度もありましたけど、『辞めたら誰が子どもの面倒を見るんだ?』と考えると、辞めるわけにはいきませんでしたね。
でもね、悪い子だといっても、腐ってるわけじゃないんです。たまたま、どこかでつまづいちゃっただけ。事実、勉強ができるようになれば立ち直れるかもしれないと思って指導したら、最初の段階から一流大学に行けるほどの成果が出た子がいたくらいです。
学校のルールはなんでも破ろうとするような子どももいます。頭ごなしに『ルールを守らないとダメだ』というのではなく、『このルールはあなたを守るためのものだ。これを守らないと、こんな危険が考えられ、そうなってしまったら、私たち学校も、ご両親もあなたを守れないかもしれない』というように、決して脅すのではなく、話して、時には『こういう場面、あなただったらどうする?』と問いかけたりして、納得してもらう。そうして、親の都合ではない、何より自分のためのルールなのだと理解してもらえれば、素直に守ってくれるようになります。
いまはよくないといっても子どもなので、本気でぶつかっていくと本気で応えてくれる。そして、勉強が分かってきたらガラッと変わる。勉強するようになるだけでなく、子どもの人間性が大きく育ち、立派な『大人』になっていく――そんな奇跡が教室で起こっているんです。こちらとしても、伸びていく子どもを見るのは楽しいから、最初は3年間だけの赴任だったはずが、結局は20年も勤めることになったんです」
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