女の子の学力をぐーんと伸ばしてきた、長野雅弘さんをインタビュー:働くこと、生きること(7/7 ページ)
「自分が行きたい学校に行ける」「自分がなりたい職業に就ける」――。さまざまな不安から伸び悩む生徒たちを、次々に有名大学に導いた教育者は、何を考え、何を行ってきたのだろうか。
まだまだアマチュア。学ぶべきことはたくさんある
「子どもの能力が伸びる」ということについては、注目しておくべきことがあるのだそうだ。
「そして重要なのは、うまくいったことや、前よりできたことに対してほめることです。ほめれば人は伸びるんです。なぜ? 実は、スピンドルニューロンという神経細胞があって、これは簡単にいえば幸せを感じる脳の一部。一度伸びれば縮まない。伸びると幸福感が持続して、ストレスに強い抵抗力を持ち、前向きになり、やる気が出るようになるのです。ほめましょう」
現在校長を務める取手聖徳を「感動製造工場」だと表現しているのも、そんな思いがあるからだ。
「感動は、人を動かす原動力です。いわば、心というエンジンを動かす燃料のようなもの。しかし、それゆえに燃え尽きやすいのもまた事実。だから私たちは、継続して感動を提供し続けなくてはならないわけです。子どもが楽しく学び、知る喜び、感動を家に持ち帰る。感動製造工場という言葉には、そんな意味合いが込められているのです。
そのため先生方は、朝のホームルームや授業の出だしに、大変苦心しています。しかし、それが重要なんですね。そしてその結果、『え、あの子がここ まで伸びた!?』『あの子がこんなに素敵に!』というような奇跡的な出来事が教室で毎日のように起きています。すると、それを目の当たりにするクラスメートや先生たちの心に感動が生まれるというわけです」
お話をうかがっているだけで、教育に対する真摯(しんし)な気持ちが伝わってくる。では、「目標」ではなく「夢」があるとしたら?
「いまの仕事を、これから先もずっと続けていけたらいいなということだけですね。前理事長からお誘いを受けたときには迷いましたけど、いまは本当にきてよかったと思っているんです。以前仕事を辞めようかと考えたことが、いまではまったく分からないですね。自分では自分のことを教育のプロだと思っていたんですが、まだまだ。学ぶべきことはたくさんあり、気づきから改善を実践していきます」
(終わり)
印南敦史(いんなみ・あつし):
1962年東京生まれ。ライター、編集者、コピーライター。人間性を引き出すことに主眼を置いたインタビューを得意分野とし、週刊文春、日刊現代、STORYなどさまざまな媒体において、これまでに500件におよぶインタビュー実積を持つ。また書評家でもあり、「ライフハッカー」への寄稿は高い評価を得ている。
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