乗り物文化の重鎮を追悼 種村直樹さん、徳大寺有恒さん:杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)
2014年11月6日、レイルウェイ・ライターの種村直樹さんが亡くなった。78歳だった。その翌日の11月7日、自動車評論家の徳大寺有恒さんが亡くなった。74歳だった。鉄道と自動車、それぞれを愛し啓蒙した重鎮が相次いで去った。鉄道ファン、自動車ファンの多くが喪失感を抱いた。その思いを、感謝、そして新たな希望へ昇華させたい。
鉄道旅行術の功績
種村さんの鉄道旅行術は、旅程の作り方、きっぷの買い方、持ち物、車内での過ごし方など、ご自身の体験談を交えた助言が豊富だった。鉄道は移動手段ではなく、移動そのものが楽しむ目的であると宣言された。その中でも、私は「ゲームのような汽車旅」という項目に開眼された。日本の鉄道の全線に乗ろう、一筆書きのような最長片道切符の旅もあるぞ。そんな提案に少年時代の私はシビれた。
当時も“乗り鉄”はたくさんいたと思うけれど、ただ列車に乗るだけの旅など、社会的には認知されなかった。内田百けん(門の中に耳)さんの「阿房列車」や、阿川弘之さんの「南蛮阿房列車」が高名な文筆家の変わった行動として楽しまれていた時代である。
しかし種村さんは、鉄道に乗る旅を「誰もが楽しめるもの」と公言してくださった。中学生の私は、遠出も泊まりがけの旅も許されず、毎日、ほんとうに毎日、鉄道旅行術をめくり、旅立つ日を夢見ていた。実際に旅立つ前に本が傷み、何回か同書を買い直した。種村さんは増刷に当たり、最新の情報を盛り込まれた。そのうちに新版を必ず買う習わしになった。
鉄道旅行術には、鉄道の旅というテーマに絞りつつ「現地では定期観光バスに乗ってみよう」という提案もあった。旅先の出会いの楽しさも触れていた。鉄道だけではなく、もっと視野を広げなさい、という呼び掛けだったと思う。種村さんは読者との交流を大切にする方で、手紙には必ず返信されたようだ。私は手紙を出さなかったけれど、高校時代に友人が手紙を出し、返信されたハガキを見せてくれた。新聞記者時代に培ったと思われる速記体のような文字だった。その難読文字は鉄道ファンによく知られていた。ネットのない時代だったから、かなりの数を返信したからこそ広まった。
関連記事
- 「長距離鉄道旅行」の終焉が、近づいてきた
夜行列車などの長距離列車が次々と姿を消している。いまやJR各社のメインターゲットは長距離旅行客ではなく、自社エリア完結型の短距離客。時代は変わり、JRも変わり、すでに鉄道を利用しての長距離旅行は“終わった”のかもしれない。 - 2014年、注目の列車旅は? 四国・東北、そして
2014年の鉄道業界は追い風と向かい風が交互に吹きそうだ。観光列車ブームの継続は追い風、消費税アップに伴う運賃値上げが向かい風。新幹線のサービスアップは追い風、LCCの国内路線増は向かい風だろうか。今年も昨年に劣らず面白くなりそうだ。 - 企画を競って業界全体を盛り上げよう――「鉄旅オブザイヤー2013」審査後記
「鉄旅オブザイヤー2013」というコンテストがある。国内旅行会社が企画、実施した鉄道ツアーの優秀作品を選び、表彰するというもの。2011年から始まり、今年で3回目。さて、今年のグランプリに選ばれたのは……。 - 日本旅行のリアル「鉄子の旅」ツアー、参加者はどんな人?
筋金入りの鉄道好きが、普通の女性を鉄道旅に連れ出すとどうなるか? そんな実録マンガ「鉄子の旅」が、パッケージツアーになった。販売する日本旅行も驚きの売れ行きだという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.