乗り物文化の重鎮を追悼 種村直樹さん、徳大寺有恒さん:杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)
2014年11月6日、レイルウェイ・ライターの種村直樹さんが亡くなった。78歳だった。その翌日の11月7日、自動車評論家の徳大寺有恒さんが亡くなった。74歳だった。鉄道と自動車、それぞれを愛し啓蒙した重鎮が相次いで去った。鉄道ファン、自動車ファンの多くが喪失感を抱いた。その思いを、感謝、そして新たな希望へ昇華させたい。
間違いだらけのクルマ選びが魅せた「大人の男」
徳大寺さんの「間違いだらけのクルマ選び」は、「間違いだらけ」が流行語になるほど認知度が高い。だから今さら内容や功績をなぞるまでもなさそうだ。徳大寺さんには「自動車はこうあるべき」という理想があって、その志は高く、自動車会社の商業的過ぎる部分に相容れなかった。読者の反応も二分されていたように思う。
私が間違いだらけのクルマ選びを読み始めた時期は大学生。自動車学校に通いつつ、クルマを選んでいたころだ。当時過ごしていた長野県松本市は、他の地方都市と同様にクルマ社会である。私の関心が鉄道からクルマに移っていたころでもある。つまり、告白するとこのころから種村氏の著作を読んでいない。そうかといって、徳大寺さんの考え方にもついて行けなかった。それはそうだ。当時、徳大寺さんが良しとしたクルマは文化や思想を持って作られた外国車ばかり(のような気がした)。アルバイトでお金を貯めて、中古の軽自動車にやっと手が届くような大学生には縁遠い世界だった。
しかし、それでも間違いだらけのクルマ選びは面白かった。クルマの話だけではなく、そのクルマを生み出した企業風土や国の文化などに話が及び、エッセイとして楽しめたからだ。そして、オレもいつかはカッコイイ車が似合う男になりたい。パイプと洋酒といい女、それにはカッコいいクルマだろう、なんて思った。間違いだらけのクルマ選びは、クルマ選びのノウハウではなく、男の有り様が詰まっていた。
私はなぜか徳大寺さんが著書で否定されたクルマばかり買っている。1台目の軽自動車は選択肢がなかったから仕方ない。2台目の小型車は、徳大寺さんによるとノーマルバージョンの評価が高い。反面、私が買ったスポーツバージョンは「レースの市販車クラスのレギュレーションのために"仕方なく"作られた」と書かれていたように思う。3台目のクーペは「先代の改悪版」とののしられた。今乗っている4台目のSUVは「ドンガラ」の一言で結論が下された。
それでも私はそれぞれのクルマが気に入っていたし、徳大寺さんが批判しても自分が惚れ込んだクルマだから、むしろ愛着がわいた。2台目と3台目は8年、現在のクルマは13年目の車検を通している。でもきっと徳大寺さんはそんな読者に対して「オレがあんなにダメと言っても惚れ込んで買うなら、それが幸せなカーライフになるだろう」と思っていらしたのではないか。
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