自治体首長選挙公約に変化あり! 「鉄道存廃」から「活性化」へ:杉山淳一の時事日想(4/4 ページ)
衆議院解散と総選挙が決まり国政がざわつき始めた。それよりひと足早く、11月16日に各地で自治体首長選挙が行われた。このうち5つの選挙の当選者が鉄道の活性化を公約に掲げている。自治体にとって鉄道の価値が高まっているかもしれない。
白山市長選挙――北陸鉄道へ観光列車を導入
石川県の白山市長選挙は山田憲昭氏が現職を破って初当選。両候補者とも北陸新幹線白山車両基地の観光活用や白山駅設置などをアピールしていた。山田氏の公約には「北陸鉄道石川線を活用したイベント、観光列車の導入」がある。
北鉄石川線は金沢市街の野町駅と白山市の鶴来駅を結ぶ。かつては観光名所でもある白山比め神社の付近、加賀一の宮駅まで延びていた。しかし業績不振により2009年に鶴来〜加賀一の宮間が廃止。現在は残った路線の活性化施策として夏季のビール列車や冬のおでん列車を走らせている。どちらも通勤電車に長テーブルを取り付けた簡易な仕掛けだ。観光列車として専用車両が投入されると活性化に弾みが付くだろう。白山比め神社だけでなく、獅子吼高原もレジャースポットとして良いところだ。活性化成功の暁には加賀一の宮駅の復活を目指してほしい。
ひたちなか市長選挙――ひたちなか海浜鉄道湊線の延伸
茨城県のひたちなか市長選挙は現職の本間源基氏が当選。4期目に入る。2期目と3期目は無投票で、12年ぶりの選挙戦。対立候補との得票差は1793の僅差だった。本間氏は、茨城交通が湊線の廃止を表明した際に第3セクター方式で鉄道存続を決定。民間から社長を公募した。新生ひたちなか海浜鉄道は東日本大震災での被災といった危機を乗り越え、地元有志による「おらが湊鐵道応援団」と連携して再生した。
本間氏の公約には、ひたちなか海浜鉄道湊線の延伸計画がある。現在の終点、阿字ヶ浦から、国営ひたち海浜公園へ至るルートだ。国営ひたち海浜公園は「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」の開催地としても有名。秋のコキアの紅葉も人気がある。延伸計画は鉄道の可能性を信じた本間政策の集大成と言えそうだ。
かつて選挙戦での鉄道に関する公約と言えば、赤字第3セクターの存廃問題だった。今は活性化を掲げる候補が目立つ。鉄道ファンとしては本当に嬉しい。鉄道の可能性を信じる地方のリーダー諸氏に、ぜひ成功へ導いていただきたい。また、衆議院選挙では整備新幹線延伸予定の地域、リニア中央新幹線の名古屋〜大阪関連地域の候補者が掲げる公約とその得票に注目だ。
関連記事
- 第三セクター鉄道が、赤字体質から抜け出せないワケ
第三セクター鉄道の多くは、台所事情が厳しい。その背景に「人口の減少」や「クルマの普及」などが挙げられるが、ある基金がネックになっていることを知っている人は少ない。それは「経営安定基金」というものだ。 - ローカル線を救うのは誰か? アニメファンを無視してはいけない
『ポケットモンスター』や『ワンピース』など、人気キャラクターをあしらったラッピングトレインが運行されている。しかし最近、アニメキャラクターと鉄道のコラボに新しい要素「聖地訪問」が加わった。観光客を呼ぶ新たな手法として注目されている。 - 危機に瀕する地方鉄道に、打つ手はあるのか
地方鉄道が危機に瀕している。もちろんすべてではないが、地方経済の疲弊や人口減などを背景に、鉄道の利用客が減少傾向にある。こうした事態に、打つ手はあるのだろうか。答えは「ある」。 - 弘南鉄道大鰐線は存続できるのか――地方に存在する事情
青森県の弘南鉄道の株主総会で、社長が「2017年3月までに大鰐線を廃止する方向で考えている」と語った。経営者として、赤字部門はすぐにでも廃止したいはず。それを3年後という期限で語ったが、そこに民間企業の苦渋が見え隠れする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.