「寝台特急北斗星を残して」と第3セクターの叫び 気持ちは分かるが“筋違い”:杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)
2015年1月13日、北海道、青森県、岩手県の第3セクター鉄道担当者がJR北海道本社を訪れ、寝台特急「北斗星」「カシオペア」の運行継続を要望した。理由は道県内や沿線の利用客の不便ではなく、JRからの運行収入が減っては困るからだ。経営危機に瀕した行動だと理解できるが同情できない。むしろ並行在来線問題の本質的解決のために行動すべきだ。
欲しいのは「カネ」
JR北海道への寝台特急存続要請は、青森県・岩手県だけではなく、北海道も加わった。北海道は北海道新幹線の開業と札幌延伸によって、新たに並行在来線を引き継ぐ予定である。寝台特急の有無は、将来の経営計画にとって重要になる。もちろん線路使用料はほしい。寝台特急に継続してもらいたい。
鉄道ファンの多くは寝台特急の存続を願っているし、私もその一人だ。ただし、青森県、岩手県、北海道が存続を要望してくれたことを心強く思ってはいけない。私たちと第3セクター鉄道の寝台特急存続は「同じ思い」ではないからだ。
青森県、岩手県、北海道の要望は、実は寝台特急ではない。線路使用料つまり「カネ」である。「寝台特急は走らせませんよ。でも埋め合わせするカネがありますよ」となったら、第3セクター鉄道にとって寝台特急は不要だ。
「東京行き、札幌行きの寝台特急がなくなると、青森県民、岩手県民は不便だ。だから残してください」というなら理解できる。しかし、両県とも地元の利用者の視点に立ってはいない。それもそのはず、北斗星は青森県と岩手県では旅客扱いしない。ただ通り抜けるだけだ。存続要請した3つの自治体のうち「利用客が困る」と言えるのは北海道だけだ。青森県、岩手県の寝台特急存続要請は、もともとスジの違う話である。
寝台特急の線路使用料、通過する乗客の運賃だって売り上げである。しかし、青森県や岩手県は乗客の目的地でも出発駅でもない。寝台列車の売り上げ増加には寄与しない。だけど「おカネがほしいから廃止しないで」は通用するだろうか。
寝台特急を存続し、継続運行によって売り上げを得たいなら、ただ存続してほしいだけではなく、「青森県内、岩手県内に1駅だけでも停車してください。そこから利用客を増やす取り組みをします」くらい言わないと説得力が無い。飛行機の話になるけれど、石川県は能登空港からの羽田便を維持するために、乗客が少ない場合も県が航空会社に対して運賃を補償している。でも、両県ともそこまでするつもりはないだろう。繰り返すが、目的は北斗星ではなくカネだからだ。
今回の要望を聞いて、JR北海道は車両の老朽化を挙げて「新製する状況ではない」と正直に告白している。ならば青森県、岩手県、北海道は「車両は沿線自治体に呼び掛けて調達する」くらい踏み込んでほしかった。しかしカネがほしいだけの要望だから、カネを出す提案などできるわけがない。
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