円高になるかもしれない、欧州の騒動:藤田正美の時事日想(2/3 ページ)
ギリシャのチプラス党首が「現実的な財政再建策についてEUなどと協議するが、これまでの支援条件を反故にする」と発言したことで、欧州が揺れている。党首の発言によってECにどんな不安要素が加わり、日本にどのような影響が考えられるのか。
円高の流れになるかも
2010年ごろから始まったこの問題は、EUやECB、さらにはIMF(国際通貨基金)などが資金援助をすることによってこれらの諸国はデフォルト(債務返済不能)を免れた。しかしこの支援を巡ってEU加盟諸国では大激論になった。支援すれば財政健全化に消極的な国はその態度を改めようとはせず、いわゆるモラルハザードを引き起こすという国(代表格はドイツやフィンランド)。それに対して支援の条件を厳しくしすぎれば、緊縮経済による社会不安などが起こるとする主に重債務国からの反発があった。
そのため支援には財政健全化という「義務」が課されることになった。緊縮財政で真っ先に切られるのは、公務員と社会保障だ。どの国でも、そこが大きな支出項目である以上、その削減なくして財政再建はない。そしてもちろん増税である。
その一方で経済が停滞したことで失業率が高くなった。中でも若年(15〜24歳)失業率の高さは危機的ですらある。2013年7月の数字だが、その当時、若年失業率が最も高かったのがギリシャ(57.3%)、次いでスペイン(56.5%)と若者の半分以上が失業状態だ。これで社会保障が削減されれば国民に不満が鬱積(うっせき)するのも無理はない。スペインでもギリシャのように急進左派勢力が勢いを増し、EUの支援条件見直しを迫っている。
こうした動きはさらに強まるだろう。そうなればユーロは売られやすくなる。ユーロを売った資金は利上げが間近とみられるドル、あるいは安定的な円に向かう可能性が高い。その意味では円安の流れというより、円高の流れになるのかもしれない。
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