新幹線開業前、ストロー現象という“幻痛”に惑わされるな:杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)
都市間をトンネルや橋、高速鉄道で便利にすると「ストロー現象」が起きる。大都市の経済力に小都市の経済圏が引き寄せられ、小都市が衰退すると信じられている。本当にそうだろうか。少なくとも過去に開通した新幹線開業では、そうした事態は確認できなかった。
瀬戸大橋でストロー現象は起きていなかった
読者諸兄はストロー現象にどんなイメージを持つだろう。列挙すると「人口が大都市へ流出する」「企業が大都市へ移転する」「買い物客が大都市を志向し、地元の商店が衰退する」などが思い浮かぶ。つまり、小都市は人口が減り、職場も減り、商店も減る。2つの都市のうち小さな都市側に立ってみると、とても恐ろしいシナリオだ。
瀬戸大橋によって四国側の経済は衰退したか。その検証に適した文献を見つけた。瀬戸大橋開通20年後の2008年に、日本銀行高松支店が作成した「香川県・徳島県金融経済レポートだ。本書によると「香川県では1990年代に入ってから、住宅投資や個人消費の成長率が全国を上回るようになってきた」という。その理由は「瀬戸大橋の開通および高速道路網の整備を契機として(略)郊外への住宅投資が活発化したほか、県外資本による郊外型商業施設の整備に伴って個人消費が刺激された」という。あれ、むしろ消費経済は発展しているようだ。
ただし事業所については、「近畿地方に本社を置く企業は、2001年から2006年にかけて1割強減少」している。その理由は「明石海峡大橋の開通によって四国と近畿の一体化が進んだことに伴い、四国内の拠点が整理・統合された可能性を示唆」するという。瀬戸大橋の先の岡山には吸い取られなかったけれど、神戸や大阪には吸い取られたらしい。ただし、「四国内他県および関東、東海地域からの進出が増加」した。香川県は四国内の拠点として注目されていると考えられる。
人口の推移について、東京、大阪、岡山、広島に対しては転出超過。ただし、四国内の他県からは転入超過となっている。事業所も四国内他県から香川に進出する傾向が見られた。まとめると、瀬戸大橋によって香川県の拠点としての価値が高まっているようだ。ストロー効果を心配した都市より、その周辺の方がマイナス影響を受けている。
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