医学部入試を通して、日本の「医師不足」を考える:日本は本当に医師不足なのか?(2/2 ページ)
国公立大学の医学部入試が行われました。医学部の定員数は未来の医師数を規定します。今回は、医学部入試を通して、昨今叫ばれている日本の「医師不足」について取り上げます。
医師の分布はどうか
実は、「数」が少ないことに加え、「分布」の偏りがあります。右のグラフは、2010年に厚生労働省が調査したデータに基づいて作成したものです。全国の病院を対象にした調査で、「現状の医師数/必要な医師数」で必要医師倍率を計算しています。
まず、倍率が全国で1倍を越えているため、全国的に医師が不足していることが分かります。それに加え、都道府県でその不足の程度に偏りがありました。
倍率が低いほうが医師の充足に近いことを示しますので、東京都や大阪府など大都市を抱えた都道府県でより医師充足傾向がみられます。医師の分布は、大都市に偏っているのです。この地理的な分布の偏りとともに産婦人科など、診療科による分布の偏りもみられます。
医師分布への対策
より深刻な「地方での医師不足」に対応するため、医学部入試では、地域枠の設定を行っています。地域枠とは、医学部のある都道府県内の出身者を対象とした推薦入試の実施や、卒後数年間の医学部のある都道府県内での勤務を条件とした奨学金の給付などを通して、地方に残る医師を確保する取り組みです。
2008年時点では33大学403人だった地域枠は、2013年時点で69大学1396人に拡大されました。このほか、大学病院と地域病院の連携を強め、地方においても専門的な研修が受けられるようにするシステムの構築や、地域医療を担う意欲を高めるような医学部における教育体制の充実などが行われています。
今後に向けて
数の不足や分布の偏りに対する対策は始まっています。しかし、高齢化社会によって患者の増加も予想される中で、このスピードでの医師数増加が適切か否かは今後見極めていかなければいけません。
また、数を増やしたことで都市から地方に医師が移動するであろうという当初の予想が、医師においてはあまり見られていないのが現状です(歯科医師ではこの現象がみられました)。この分布の偏りの是正のため先に書いたような対策がなされていますが、いずれも強い強制力がない点が弱みです。
各国の対応はどうでしょうか。例えばフランスでは、医学部6年生のときに全国の医学生全員がECNという全国統一試験を受けなければいけません。そして、国の出先機関である州保健庁が、成績順に医学生(研修医)の働く診療科、勤務地を決定します。医学生は希望を事前に提出しますが、成績が悪ければ希望通りにはなりません。この仕組みによって、医師の診療科偏在、地域偏在がコントロールされています。英国も政府によって専門医定員数、地域医師数が規定されています。
現時点で、日本では医師の希望通りに診療科や勤務地を選択できます。世界一の長寿国となった日本の医療は胸を張っていいはずですが、医師数の不足と分布の偏在は確かに起きている問題です。未来への対策とその効果判定をしっかり行っていく必要があります。 医師不足対策の1つとしての医学部入試に、今後も注目が集まります。(橋本直也)
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