数年後、認知症患者は1000万人に? そうした社会で求められる価値観:窪田順生の時事日想(2/4 ページ)
認知症のお年寄りが増えている。厚生労働省が試算した数字よりも多いペースで増えていて、このままでは数年後に1000万人を超えるかもしれない。超高齢化社会を迎えるにあたって、私たちはどのように対応すればいいのだろうか。
認知症のお年寄りは「ポップな生き方」
和田さんの施設は夜間以外カギをかけない。ベッドに縛り付けるベルトもない。認知症のお年寄りも普通に買物に行って、包丁を握って料理をする。和田さんらスタッフがサポートをしながらではあるが、できるかぎり「これまでどおりの暮らし」を維持するように心掛けているのだ。このような自立支援には「待つ」ことが重要だと和田さんは言う。
「子どもだって最初からなんでもできない。親や周囲の人間がいろいろ教えて少しずつ自分のものにしていく。認知症もきちんとした支援をすれば“できていたことができる”ようになる。それは認知症になった方たちと接していて教わりました。」
もちろん、さまざまなリスクもあるし手間ひまもかかる。介護する側からすれば、拘束や部屋に閉じ込めておいたほうが遥かに効率がいいだろう。それでもこのスタイルを貫くのは、「人間の尊厳」を守るためだという。
このあたりは先日発売された『介護ビジネスの世界』(宝島社)という本のなかで紹介されているので、興味のある方はぜひお読みいただきたい。そんな和田さんが発した言葉のなかで、個人的にものすごく印象が残ったものがある。それは、和田さんが認知症のお年寄りについて、「ポップな生き方」と評したことだ。
これまで介護施設や介護現場を取材したが、「ポップだな」と思ったことは一度もなかった。気の毒にとか、大変な苦労だなとか常に重苦しい暗いイメージしかなかった。その最前線で28年も戦い続けている人からこんなカラッとした明るい言葉が出たことに驚くとともに、認知症に対する見方が少し変わったのである。
そんなの現実逃避だ、言葉の言い換えだ、と思う人もいるかもしれないが、呼び方を変えるだけでも大きな意味がある。というのも、実はこの「認知症」という現象自体も「言葉の言い換え」によって大きな変貌を遂げているからだ。
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