数年後、認知症患者は1000万人に? そうした社会で求められる価値観:窪田順生の時事日想(3/4 ページ)
認知症のお年寄りが増えている。厚生労働省が試算した数字よりも多いペースで増えていて、このままでは数年後に1000万人を超えるかもしれない。超高齢化社会を迎えるにあたって、私たちはどのように対応すればいいのだろうか。
痴呆症患者の統計も推計も「増加」
覚えている方も多いと思うが、認知症はかつて「痴呆(ちほう)」と呼ばれた。1993年の厚労省人口問題研究所は、1990年に100万人だった「痴呆症」のお年寄りは、2025年になると322万人に増えると試算をしている。2003年の厚生労働大臣の私的研究会でも、「中重度の痴呆症」患者が2025年には176万人と推計している。この数字を受け、多くの人はまあそんなもんでしょと思っていた。
というのも、この時期は日本発のアルツハイマー治療薬が世に出たタイミングでもあった。進行を遅らせる画期的な薬が世界でバンバン売れて1999年には国内でも承認。アルツハイマー病が引き起こす「痴呆症」に対して“希望の光”が差し込み始めたのである。だが、現実はその逆で、この治療薬が登場したあたりから、認知症になるお年寄りの数が雪だるま式に増えていくのだ。
これは言葉の言い換えによって「痴呆」に抱くイメージが変わったことが大きい。2004年12月に厚労省が今のように「認知症」という呼び換えを決定して、「認知症をもっと知りましょう」という啓発キャンペーンを行った。これによって、「痴呆」という言葉に抵抗感のあったお年寄りの心のハードルを下げ、「最近物忘れが酷いし、もしかして認知症かしら」とお医者さんに相談をするという流れが確立したことで、飛躍的に認知症が増えていったのである。人の名前や自分の生年月日がパッとでないお年寄りが、場合によっては「認知症予備軍」というカテゴリーに入れられるようになったのだ。
それに拍車をかけたのが、「マイルド・コグニティブ・インペアメント(軽度の認知的低下、通称MCI)」という概念である。物忘れがヒドい人の何割かが認知症になるというデータがとれたことで、物忘れがヒドくなったらまずは診察と予防という潮流が一気にすすんだのだ。
これを「医療の進歩」ととるか「マーケティング」ととるかは意見の分かれるところだが、いずれにせよ、認知症数はぐんぐんと増加。厚労省研究班は2012年時点で、認知症462万人、うち介護サービスを利用する認知症高齢者は305万人、MCIは400万人いると推計した。2025年には介護サービを利用する認知症高齢者が470万人に膨れ上がるなんて予測も出て社会に大きな衝撃を与えたが、今年頭に厚労省が改めて出した推計に、多くの国民は耳を疑った。
2025年に認知症高齢者は700万人――。振り返れば、1993年当時の試算からなんと2倍以上に膨れ上がっている。もちろん、これも通過点に過ぎない。アルツハイマーの超早期診断を目指す「J-ADNI2」の臨床試験も2018年に始まるので、数年後にはこの推計は「1000万人」に膨らんでいるはずだ。ただ、この数字をとやかく言ってもしょうがない。問題はこの「雪だるま式に増えていく認知症」という現象を受けて我々が何をするかだ。
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