“火中の栗拾い”に立ち向かう――WILLER TRAINSの「京都丹後鉄道」に期待:杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)
ピンクの高速バスとして親しまれているウィラーグループが「京都丹後鉄道」として鉄道事業に参入する。それは「ピンクの列車を走らせる」「高速路線バスと連携した観光促進」という単純な話ではなかった。赤字に苦しむ地方鉄道再生の手本になるかもしれない。
バス営業のノウハウを鉄道に生かす
WILLER ALLIANCEによると、同社の高速バスは98%がWEBからの予約となっている。そのWEBの発信力を利用して北近畿タンゴ鉄道のプロモーションを展開し、沿線地域の魅力を外部へ発信して、観光客の誘致で収益の底上げを図る考えだ。
インターネットの活用について、WILLER TRAINSの京都丹後鉄道は、企画乗車券を増やし、インターネット予約割引を実施する。私はここに北近畿タンゴ鉄道からの大転換を感じる。北近畿タンゴ鉄道時代は、多数の企画乗車券を用意したものの、大幅に削減した経緯がある。運用の煩雑さやきっぷの在庫管理の手間が原因だったと思われた。
しかし、京都丹後鉄道は割引乗車券を増やす。既存のフリーきっぷを残して「Web割」を導入する一方で、家族割引「週末ファミリーパス」や、祖父母と孫の組み合わせで使う「55&キッズ全線パス」、お花見やお祭りなど、沿線のイベントとタイアップしたフリーきっぷなどを導入する計画だ。これは「価格を下げれば新しい移動需要が生まれる」という、高速バスの経験が手本となっている。さらに、顧客ターゲットごとにきっぷを設定し、イベントごとにきっぷを作り、イベントそのものを発信してお出掛けを喚起する。
私は「きっぷのインターネット発券」に期待している。その理由は、以前、北近畿タンゴ鉄道を旅したとき、北近畿タンゴ鉄道の豊岡駅でフリーきっぷを購入できなかったからだ。豊岡のホテルに泊まり早朝に出発しようと思ったら、豊岡駅の窓口が閉まっていた。仕方なく終点の西舞鶴駅まで片道きっぷを購入し、あらためて西舞鶴駅でフリーきっぷを買った。
大手私鉄の場合、定期券窓口がない駅から定期券発行駅まで乗車すると、そのきっぷ代を返してくれるサービスもある。しかしこのときは駅員さんの「すみませんなあ」で終わり。駅員さんは気の毒がって、何かグッズをプレゼントしようと探してくれた。時間がかかりそうだったのでご厚意だけいただき辞退した。
せっかくフリーきっぷを用意しても、窓口が閉まっていたら購入できない。ピンクのバスのようにオンラインで発券する、あるいはオンラインでクーポンを発行して日中の駅で交換できる仕組みがほしい。この要望について聞いてみたところ、「4月1日の運行開始時点では実現いたしかねますが、今後検討いたします。バスで蓄積した実績やノウハウをぜひ鉄道にも生かしたい」とのことだった。
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