“火中の栗拾い”に立ち向かう――WILLER TRAINSの「京都丹後鉄道」に期待:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
ピンクの高速バスとして親しまれているウィラーグループが「京都丹後鉄道」として鉄道事業に参入する。それは「ピンクの列車を走らせる」「高速路線バスと連携した観光促進」という単純な話ではなかった。赤字に苦しむ地方鉄道再生の手本になるかもしれない。
「火中の栗拾い」を「火消し」から始める
観光客の誘致については、もちろん自社で展開するピンクのバスとの連携もありそうだ。黒部峡谷鉄道のように、乗客のほとんどがバスでやってくる観光鉄道もある。しかし京都丹後鉄道はピンクのバスとの連携よりも、北近畿タンゴ鉄道時代からのJR西日本との連携を維持、強化したい考えだ。鉄道の輸送力はバス1台の誘客よりもはるかに大きい。大阪や東京から夜行バスを1日1往復させるくらいでは、鉄道事業への貢献度は低い。
観光需要を増大させたとしても限界がある。鉄道事業だけを頑張っても、鉄道だけのチカラでは収益改善は無理だ。そもそも沿線地域に鉄道を利用する人がいない。地域の過疎化やマイカー依存などが、ローカル鉄道存続の大きな壁になっている。従って、地方では鉄道は赤字で当たり前という状況だ。そのあきらめが北近畿タンゴ鉄道に閉塞感をまん延させてしまった。
民間企業の地方鉄道に対する運営参加は「火中の栗拾い」という例えがピッタリだ。しかし京都丹後鉄道に対するWILLER ALLIANCEの答えは単純で明確だ。火中の栗を拾うには火を消せばいい。人がいないなら増やせばいいし、マイカーに依存しない町を作ればいい。いや、それはその通りだ。言うだけなら簡単。では具体的に何をするか。WILLER ALLIANCEは3つの柱を掲げている。「公共交通のみで暮らせる仕組みを作る」「若い人が働く場所を作る」「交通や街作りを教育する場所にする」だ。
関連記事
- 北近畿に異変アリ! 異業種参入のバス会社が鉄道事業を託された理由
国土交通省は3月11日、北近畿タンゴ鉄道と沿線自治体、ウィラートレインズによる鉄道事業再構築実施計画を認定した。4月1日から「京都丹後鉄道」が発足する。その背景には何があったのか……。 - 地方鉄道が、バスやトラックに負ける日
JR西日本は10月から、ローカル線「三江線」の増発実験を実施する。ただし、増発する便は列車ではなく「バス」だ。これは鉄道廃止の布石だろうか。そこにローカル線の厳しい実情がうかがえる。 - それでも「鉄道が必要」──三陸鉄道に見る「三陸縦貫鉄道復活」への道と将来
東日本大震災から3年を経て、三陸鉄道が全線復旧した。鉄道以外にいくつかの手段が模索される中、今回それぞれの交通システムを体験して分かった。それでも「鉄道が必要だ」と。 - 鉄道からバス転換で浮かび上がる、ローカル線の現実
JR東日本は岩泉線のバス転換方針を発表した。鉄道復旧を望む地元は落胆し、やがて反発へ向かうだろう。プレスリリースにはローカル鉄道の厳しい現実を示しているが、奇跡の復活はあるのだろうか。 - 利用者激怒、信頼失墜……交通機関のストライキに効果はあるのか?
3月20日、関東バスと相模鉄道・相鉄バスの3社がストライキを決行した。法律に基づいた行動だが、利用者からは歓迎されず、現場の労働者自身が批判の矢面に立たされている。労働争議の手法は長い間変わっていないが、そろそろ新たな戦術が必要ではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.