クラウドファンディングで鉄道遺産を守れ!:新連載・杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
ビジネスのスタート資金調達として定着しつつある「クラウドファンディング」が、鉄道分野でも活用されている。北海道では有志が電車の保存を呼び掛けて、3日間で300万円以上を集めた。
クラウドファンディングで鉄道趣味が変わる
当初、永山氏はクラウドファンディングに対して不安が大きかったという。そこはREADYFORの担当者と同じ認識だ。しかし、711系の最終運行日が近づくにつれて、沿線には鉄道愛好家が増えてきた。廃止を惜しむ新聞報道もあって、ラストランの日は鉄道ファン以外の人々も見送りに訪れた。この人たちに思いが届けば……と、不安が期待に変わった。研究会の会員がSNSなどで発信し、手応えをつかんだ。
研究会は道内の各マスメディアにも情報を提供した。北海道新聞社が、この取り組みを1面トップで報じてくれた。これで認知度の初速が上がった。背景には、もともと北海道新聞社が鉄道の話題も多く取り扱っていること、同社から711系電車の惜別写真集の刊行が決まっていたことがある。この写真集は1万円のファンド応募者に進呈される予定だ。
ほっとバスの親会社、日本旅行の広報も計画に賛同して、全国媒体へ向けてプレスリリースを配布した。研究会メンバーのうち、ネットに親しむ約30人も情報を発信。また、この話題を取り上げてくれたブログなどへお礼のコメントをするなど地道な運動も行った。
Twitterアカウント「赤電くん」も登場し、支援の輪が広がった。この勢いが3日間で234万円の目標達成に結び付いている。応募期間は4月15日まで。4月2日現在で金額は318万5000円。参加者は314人。当初予定より100万円も多く集まりそうだ。研究会では「目標額を超えた資金は維持費に当てたい」としている。
今後の予定は次の通り。4月6日以降にJR北海道と正式な購入手続きを開始、電車の輸送のため道路管理者に対して「特殊車両の通行申請」を行う。この手続きは約2カ月が必要とのことで、5月下旬から設置場所の土木工事を始め、6月中旬に2晩かけて運搬。7月20日の道下産地直営レストラン開業に合わせて一般公開予定とのことだ。
北海道鉄道観光資源研究会の設立趣旨は、「北海道に残る鉄道の痕跡、美しい景観の中を走る列車、道南いさりび鉄道や新幹線など、現在・過去・未来にわたって鉄道の魅力を発信し、観光活用を含めて、経済効果を引き起こし、地域に貢献する」とのこと。任意団体のため資金はなく、知恵と情熱で頑張ってきた。
そこにクラウドファンディングという新たにツールが加わり、資金力も手に入れた。現在、道内の自治体から鉄道遺産を使った観光活用などのコンサルティングの依頼もいくつか舞い込んでいるという。今は711系の保存公開のプロジェクトに集中しており、次に何をやるかは決まっていない。
「もしかしたら、北海道鉄道博物館も実現できそうですね」と聞いてみたところ、「一カ所に集めることも大事だけれど、それぞれの遺構や車両が活躍したゆかりの地に残すことも大事。今後は各地の保存活動などを結んでいきたい」とのことだった。
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