架線柱倒れにトンネル白煙、相次ぐJR事故からビジネスマンが学ぶこと:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
先日のJR東日本の架線柱倒壊事故は大きな交通マヒを起こした。しかしその前にJR北海道が青函トンネル内で白煙事故を起こし、JR西日本は北陸新幹線で給水ホースを外し忘れた。事象も原因も異なるが、3つの事故に共通する失策がある。
約40分の空白、小さな事故の背景にある危険性
この事故の問題点はいくつかある。そもそも、給水作業を金沢駅で実施する必要があったか。「かがやき532号」は開業時の人気を見込んだ臨時列車だ。しかし運行開始は3月14日からで、2週間も毎日走っている。つまりこの給水作業は現場にとって、特別に不慣れな状況ではない。しかし、ダイヤを見ると金沢駅11番線からの発車列車で、折り返し到着列車はない。恐らく車両基地から出動している。すぐに折り返す列車なら駅の作業もやむを得ないけれど、車両基地で準備を整えられなかったか。
そして、もうお気付きだと思うけれど、ホウレンソウが機能していない。「かがやき532号」が金沢駅を発車して、乗客から異音の報告を受けるまで、約40分もかかっている。この間、「かがやき532号」は富山駅に停車している。金沢駅発車から約20分後だ。もしホウレンソウが正しく機能していたら、数分程度で運転士に連絡が届き、富山駅で停車中に点検できた。
金沢駅で列車が発車直後に、担当者は失態を報告できていたか。その報告はどのような経路で列車指令に伝わり、運転士に伝わったか。予見できる危険性を考えると、この約40分間は長すぎる。情報伝達ルートの精査が必要だ。ホームの上には乗客が押せる緊急停止ボタンがあるけれど、ホームの下にもあるだろうか。列車指令または駅長室へのホットラインはあるだろうか。
JR東日本の架線柱事故は、現場からのホウレンソウが機能しても、連絡を受ける側が対処しなければ無意味になってしまうという教訓である。JR北海道の白煙事故も同じ。一方で、JR西日本の北陸新幹線ホース事故は、ホウレンソウが機能したか否かも明らかにされていない。給水ホースの外し忘れは、3つの事故の中で「もっとも小さな事故」に見える。しかし背後に大きな危険が隠れており、再発防止の取り組みが見えない。
鉄道事故に限らず、自動車事故、航空機事故、火災などの報道は、原因と対策もきちんと伝えてくれなければ野次馬と一緒だ。それは私たちのどんな仕事も同じ。失敗したら、同じ過ちを繰り返さないよう対策する。これはビジネスの常識だ。新入社員ではなくてもホウレンソウは大事。「ホウレンソウを受けた後」の処置も大事。というわけで、本稿をぜひ新人研修にお役立ていただきたい。
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